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40・草原
しおりを挟む目の前に広がるのは、何処までも続く草原だった。
いつ見ても圧巻だと思う。前世ではこんな風景なかなか見られなかった。
もしかしたら北の方の地域なら近い光景があったかもしれないが、残念ながら私は地域の主要都市で生まれ育って、他を知らないまま生まれ変わったので、画面や写真の中以外で、実際にこんな場面など見たことがなくて。そもそも、あの国は狭かったのだ。
この国も国土という意味では前世のあの国とさほど大きく変わらないが、人口が違っていて、前世のようなせせこましさは全く感じられない。
前世で生まれ育った国と同じように、ここ、イェルティエにも国を二分するような山脈が連なっていたりもするのだが、とは言え、国土の中で山岳地帯が占める割合には大きな差があり、イェルティエの大部分は平野のようなものだった。
魔獣や魔物が闊歩するような魔の森も国内にはなく、周辺諸国との関係も良好。国内は概ね平和で、目を覆うような腐敗もほとんどない。
この世界の中ではごくごく一般的な、平穏を絵に描いたような国が我がイェルティエで、人口も多すぎず少なすぎず、目を見張るような発展もなければ、その逆に周辺から取り立てて劣っているような部分もない。平野と言って差し支えない部分が多いので、人が住む場所として、余裕がある傾向さえあると言えた。
この辺りは国境近くの田舎なのでよりそう思うのかもしれないが、王宮を出てここへ来るまでの途中で見た首都でも地方都市でも、そう大きく印象が変わることはなく、大きな街の中心部こそ、多少建物が密集していたりはするのだが、それでもどこか牧歌的な雰囲気が漂っていたほどだ。
多分、この国自体の雰囲気だとか、そもそもこの世界特有の印象だとかいう部分が違うのだと思われる。今世の記憶をどれだけ思い返しても、私の知識の中で前世のような狭苦しい街並みなどどこにもないのだから間違いないことだろう。
この国から遠く離れた国のことなどになるとわからないけれど。少なくとも、この周辺国にそんな場所はなく、とにかく今、私の目の前に広がるのは何処までも続く草原なのだった。
「ミリー!」
後ろから呼ばれて振り返る。そこにいたのは近所に住む女性で、私はいま彼女と連れ立って、この少し先の市場まで、買い物に行く途中なのだった。
うっかり、今更、目の前の光景に見惚れてしまっていたと少し申し訳なく思う。
「どうしたの? 何かあった?」
「ううん、なんでも。今日も天気がいいなぁーって」
晴れ渡る青空を指してそう応えると、彼女はあははと明るい笑い声を響かせた。
「この辺はだいたいいつもいい天気じゃない。今更よ? 見慣れた光景でしょう? 変なミリー」
「そりゃあ、貴女は見慣れているかもしれないけど。私にはまだ少し物珍しいのよ」
「ああ、そう言えばミリーって前は王都にいたんだっけ。じゃあ、こんな草原は珍しいか」
「そうそう。あっちはここより天気も崩れやすかったしね」
言い訳のような、そうでないようなことを話しながら、彼女が促すままに歩き出す。この辺りは本当に天気が崩れることさえもほとんどないのだ。
少し留まる場所として、この地域を選んだのは正解だったなと私は思った。
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