【完結】前世を思い出した身ごもり公爵令嬢は過保護な溺愛国王から逃れたい

愛早さくら

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46・会いたい

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 リリーはすくすくと成長している。
 陛下からの連絡はない。
 一年という期間は、長いようで短く、特に小さい子供と日々接していると、飛ぶように過ぎていくと言ってよかった。
 なお、この場所を用意したのがアリムエ執政官であることからわかるように、実は目立たないようにそこかしこに護衛が配置されていて、リダを伴えたのもそれの一環と言ってしまって間違いない。
 実家である公爵家も、この環境を用意することに手を貸したと聞いている。あらゆる人の手を借りての逃亡劇で、それも皆、陛下へと変化を促すためのもの。これにかかっているのは、私の今後だけではなく、この先の王宮での王族としての在り方と言っても過言ではなかった。
 陛下に、良くない悪習を作らせないためのものだ。
 だけど一年という期限が近づいてきて、今更、私はわからなくなっている。
 本当にこれで良かったのだろうかと。
 ただ、どれだけ思い返しても、私には王宮でのあんな生活は耐えられなかったことだけが事実。
 私は陛下を支え、時に諫められるような存在になりたかったし、あのままでは到底そうなれるとは思えなかった。
 時間が必要だったのだ。
 前世の感覚と、今世のそれとが馴染むまでの時間が。窒息してしまいそうなほどの陛下からの溺愛と、真正面から向き合う覚悟を決める為の時間が。流されるばかりではいけないことなんて、だってわかりきっていたのだから。
 だけど当初、すぐにも条件を飲んで、行いを改めてくれるだろうと思われた陛下からは何の連絡もないままもうすぐ一年になる。
 アリムエ執政官は言っていた。陛下が決心するまでは、この場所を教えることはないと。
 これほどまでに何の便りもないということは、陛下の心が定まっていない証。
 一年近く離れて、私は余計に陛下のことがわからなくなっていて。
 私にとって陛下とは何だったのかとさえ思う。
 教会で請け負う仕事によっては、私は教会までリリーを連れて行くことが度々あって、今は、帰り道。
 腕の中のリリーはおとなしく周囲を眺めている。
 夕暮れが草原を赤く染めていた。
 風が吹く。変化の術で髪色を変えただけで長いままの髪がさらりと軽やかに棚引いた。

「まま?」

 少し、ぼうっとして立ち止まってしまっていたのだろう。腕の中から聞こえてきた幼い呼びかけに我に返る。
 この一年近くで随分と大きくなった。
 この子はまだ幼すぎて、父親のことなどほとんど記憶にないだろう。これほど長く父親と放すつもりなどなかったのにと、そう思う。
 だけど。
 王宮でないからこそ、今のように思うさま構ってやれていた。こうして抱きかかえて歩くこと。そんなさり気ないことだって、あそこではなかなかままならなかったのだから。
 私はもう、わからない。
 逃げたかった。
 陛下の寵愛は息苦しいぐらいで、溺れそうなほどの執着は、むしろ怖いとさえ思うほどだった。
 それでも。
 私は、陛下のことを愛していたのである。
 なんだか今、無性に、私は陛下に会いたかった。
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