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12・旅路④

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 領主邸のある都市までは、特に何問題が起こらなければ、10日ほどで着くらしい。
 そもそも、聞けば僕がホセの元へ身を寄せてすぐ、僕の迎えへとネアはあの集落へ向かって出発したのだとか。……――僕がホセの元へ身を寄せるようになって、そこまでの日数は経っていない。
 指摘するとネアは、

「我々だけの移動であれば、それほど日数などかかりません。精々がその半分ほどでしょうか。むしろ到着は遅れてしまっています」

 シズとはあの集落に入る直前に行き会ったのだそうだ。
 きっと主は遅いと気を揉んでいることでしょう。
 そんな風にまで言われ、僕はきゅっと眉根を寄せた。
 主、とは、僕を保護したいという大領主のことなのだろうか。
 ネアを迎えに寄越した上で、遅いと詰るような人物なのか。
 僕は本当にそんな人の所へと身を寄せてしまってよいのだろうか。
 とは言えこのまま僕は抗わず連れていかれる他にない。
 何せここはまだ砂漠。
 到底、僕一人では、何処にも辿り付ける気なんてしなかった。
 そうして更に数日。7日ほどが経った頃のこと。
 朝、いつもなら歩き始める時間を過ぎても、誰も動き出そうとしない様子に、僕はことと首をかしげた。

「どうかしたのですか?」

 日はもうすでに高い。
 急ぐのではなかったのだろうか。
 今いる場所は岩場のすぐ脇で、夜、休むためのテントのようなものが張ってあり、それほど過ごしにくい場所ではない。
 ごくごく小さい水場も近くにあった。
 だからこそ昨夜はここで休むこととしたようだったのだが、それはそれとして。
 こんなにも明るくなっているにもかかわらず、動き出さなかったことなどこれまでなかった。

「どうやら今日は難しそうなんだ」

 まだ出発しないのか。
 訊ねる僕に、しんなりと眉を下げ、答えてくれたのはホセ。

「それよりも、出来るだけこっちに」

 言いながらテントのような物の中、一番奥へと誘われる。
 少し前まで、体を横たえていた場所だ。
 起きて、食事を摂って、近くの水場で、さっと手足を拭ってきた帰りだった。
 そういえばと、いつも動き出す時間より、今日はどうやら遅い時間のようだと外の明るさから気付いたのである。

「ここは運よく岩場になっているし、だから多分それほど影響はないだろう。でも、この先は次の集落までほとんど砂地ばかりだったはずだ。なら、余計に今日は下手に動かない方がいい」

 気が付くと他の者も固まるように集まってきていて、連れているラクダも、皆近くに固まらせているようだった。
 ネアまでもが少しばかり体を縮め、近くまで寄ってきている。
 テントのようになっている場所の出入り口にしている部分が、ぴったりと固く閉じられた。
 途端物凄く薄暗くなる。
 とは言え、布越しに陽射しが透けているので、そこまで真っ暗というわけでもないのだけれど、元々影になっている部分であることもあり、なんだかひやと冷え込むような気さえした。
 勿論、朝や晩ほどでは全くないのだけれど。

「いったい何が」

 どうしたというのだろう。
 わからない。
 わけがわからないままの僕に、ホセはごくごく簡単に、小さく応えた。

「嵐が来る」
「嵐」

 こんな、砂漠に?
 ぼんやりと復唱した僕に、ホセが頷く。

「ああ、砂嵐だ」

 そのホセの言葉が合図ででもあったかのように、急に陽射しが陰ったように思えた。
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