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44・あたたかな朝食
しおりを挟む僕はなんだか眠ってばかりだなぁ、思いながら目を覚ました。
勿論、仕方のない部分があることは理解している。
今、僕は身重で、ただでさえ、怠さや眠気は感じやすい傾向にあるのだとホセが言っていた。
医療師としての意見なのだろう。だからそういう時は体の欲求に逆らわずにゆっくり休めばいいと。
とは言え、こんなにも休んでばかりなのもどうなのだろうと思ってしまう。でも。
すぐに疲れてしまうのも、上手く動けないのも本当で。
そんな風にとりとめもなく思考を巡らせる僕を起こしたのは、どうやら眩しく降り注ぐ朝の光のようだった。
夜が明けたのだろう、変わらないぬくもりに支えられ、ゆっくりと体を起こし、見まわした辺りはある意味では昨日と何も変わらない。
ただ朝の光が眩しいだけで、川の水がキラキラと反射していて、微かパチパチと火のはぜる音がしているのは、一晩中火を焚き続けていたからなのだろう。
まさかシズは全く眠っていないのだろうか。ちらと思ったが、それを僕が気にしても、ただ躱されるだけなのだろうと思い直した。
ホセは僕の側。
僕に寄り添い支えてくれる。
変わらない、金色の獣の姿で。言葉一つ発さずに。
なんとなく気になってじっと見た。
あまりにじっと見過ぎたせいか、少しばかり不思議そうに首を傾げている。
そんな仕草が少しだけかわいい、精悍な顔も凛々しい金色の獣。
緑がかった紺色の目は、陽の光を受けて薄まり、今は青くキラキラと澄んでいた。
こればかりは姿が変わっても変わらない、いつも僕へと降り注がれていた、気づかわし気なホセの眼差しだ。
ずっと、僕と一緒にいてくれているホセ。
思えば、離れていた時間の方がきっと短い。
それぐらいにずっと傍にいた。
「起きたのか」
声をかけられ、そちらを向いた。
シズ。
そう言えば砂漠で。一番初めに僕を見つけたのはシズだと言っていただろうか。
きっとシズはいつも一番に僕を見つけてくれるのだろう。
今もこうして、誰よりも早く僕の元へと駆け付けてくれたように。
――……離れないままだったらしいホセはともかくとして。
「はい。おはようございます、シズさん。ホセさんも」
柔く笑んで挨拶を返すと、ホセが鼻先を摺り寄せてくる。
そのくすぐったさに小さく笑って、顔を洗おうと川へ向かった。
シズは止めず、ホセが寄り添ってくれる。
それほど離れていなかった川のすぐ傍に屈みこみ、そっと両手を水の中へと沈めていった。
「つめたっ」
びくっと体を揺らしてしまったけれど、ひやとした冷たさが心地いい。
コクと水を飲み、次いでパシャパシャと顔を洗い、少しだけすっきりする。
そう言えば昨夜は風呂どころか体を拭いたりさえできていないが、この状況なら仕方がないのだろう、このまま水に入ることも少しだけ考えたがやめておいた。
陽射しは眩しいし良く晴れているようだから、服などが濡れてもすぐに乾くだろうけれど。
まだ、堪えられないほど深いというわけでもない。
そもそもあの砂漠を進んでいる時だって、風呂などには満足に入れはしなかったのだ。
水も稀少だったから、ただ砂や埃を払う程度で。
それを思うとたかだか一日。それぐらい何ともないことだろう、少し気になるとすれば、ここは森の中、砂漠ではないので空気が少し湿っぽいことぐらいだろうか。
乾いている場所にいる時よりも湿っている場所にいる時の方が汚れが気になるのはなんだか不思議だ。
そんなことをしている間に、昨夜と同じようないい匂いが漂い始めて、どうやらシズが、朝食を用意してくれているようだと知った。
「あまり、代わり映えがしないのだが」
言いながら、リズの近く、火の側へと戻った僕に、シズが、スープのようなものを注いだ椀を差し出してくる。
「いえ、そんな……ありがとうございます」
僕はそれを素直に受け取って、ゆっくりと熱さに気を付けながら口を吐けた。
途端に染み入るよう口の中を満たすのは昨日と同じ素朴な旨味。
だけど使っている香辛料が昨日とは違うのだろうか。
味そのものは全く同じというわけではないらしかった。でも。
「美味しい、です……」
温かなおいしさは変わらない。
「そうか。ならよかった」
安堵した、という雰囲気すらないシズのいつも通りの声音に僕は微笑んだ。
「はい」
そうして、朝の光の中、僕とシズとホセはただ静かに朝食を終えた。
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