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47・焦燥と警戒
しおりを挟む「っ、……ルっ!」
ガバッ、叫びながら身を起こした。
……。
僕は知らぬ間に、誰かの名を呼んでいた。
否、誰か、だなんて。
そんなのわかりきっている。
僕が求めて名を呼ぶのは一人だけ。
愛しい愛しい僕の番。
だけど。
どうして、その名前を憶えていられないのだろうか。
今、確かに呼んだはずの名が、わからない。
「…………」
そっとのどに触れた。
とんでもない不安感が、僕の体を満たしている。
ああ、僕の番、愛しい貴方。
どうして貴方は今、僕の側にいないの。どうして。
探さなければ。
僕の番を。
探して、そして二度と、もう離さずにいられるように。ずっと一緒に。
決意も露わに、いつの間にか伏せていた顔を上げた。
と、変わらず傍らにあったぬくもりも、すぐ傍にいたらしいシズも、二人ともが嫌に緊張していることに気付く。
否、何かを警戒している?
「……ホセさん、シズさん?」
いったいどうしたのだろうか。
今は、いったい。
ああ、そうだ、川上を目指して、川に沿って歩いていて。
お昼に、と座り込んで、少し眠ってしまっていたのだった。
そして今、目が覚めた。
僕は番の夢を見ていて、番の名を呼びながら目を覚ましたのだ。
それで……――どうして、二人はこんなにも、何かを警戒しているのだろう。
僕の呼びかけに、気付かないわけがないシズがちらと僕に視線をやった。
否、僕の傍らのホセに、だろうか。
そのまま、注意深く辺りを警戒していたようだが、何もないとわかったのか、ようやく少し警戒を緩めている。
僕も周りを見回してみたけれど、特に変わった様子はない。
眠ってしまっていたのは、それほど長い時間でもないのだろう、太陽はまだどうやら真上付近にあるままだったし、川は止まることなく流れていて、周囲の森も、時折樹々の揺れる気配がする程度。
何も変わらない。
眠りに落ちる前と変わらない河原の景色だ。
二人が何を警戒していたのか全く分からなかった。
「ホセさん、シズさん?」
もう一度名を呼ぶ。
そうしたらややあって、シズがようやく、は、と細く長い息を吐いた。
「いや、すまない。何もなかったようだ」
よくわからなくて首を傾げた。
何かおかしな気配を感じて警戒していたけれど、結局は何もなかったみたいだったと言うことなのだろうか。
「えぇっと、あの……大丈夫、なのですか?」
おそるおそる問いかけると、シズは小さく頷いて。
「ああ。今からこれでは身が持たないからな。諦めるしかないのだろう。……ホセも」
よくわからないことを言いながらシズはホセに何かを促しているようだった。
そう言えばシズは警戒を解いたようだったけれど、ホセはそうではなかったな、とそれでもずっと僕の傍らにピタとくっついていたホセの様子を窺った。
温かさも、柔らかな毛並みも何も変わらないのだけれど、気配が随分と尖っている。
まだ何かを警戒しているのか。
わからなかった。
だけどそれからややあって、ホセも何かを諦めたかのようにそろそろと息を吐いて体を緩めて。
何もなさそうだということを、ようやく認められたということなのだろうか。
首を傾げる僕に、シズがその通りだとでも言わんばかりに小さく頷いていた。
次いで、
「では、そろそろ行こうか。デュニナも、問題ないようなら」
僕の方は元々、何も問題なんてない。
敢えて言うなら夢見が少し悪かったぐらいだろうか。
だがそんなことで歩き始めるのを拒否なんてするはずがなくて。
「はい、大丈夫です」
頷いて立ち上がった。
いつものようにホセがやんわりと支えてくれる。
それに合わせ、身を預けきって、シズがこちらを気にしながら歩き始めるのへ着いていった。
川沿いを進む。
川はきらきらと何も変わらない顔をして、ただ、止まらずに流れ続けていた。
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