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2・学園でのこと
2-2・僕の性格の悪さと、
しおりを挟む「貴方って性格が悪いわよね」
アツコの言葉に僕は頷く。
「間違っても性格がいいなんて自称しないよ」
僕は自分が善人ではないことを知っている。だが同時に、悪人と言えるほど悪い人間でもないことも知っていた。否、どちらかというと悪い人間だろうか。
僕には自覚がある。
僕はあの結界場にも入れるし、何より王宮で寝起きしている。僕に悪意や害意がないことは明白だった。王宮内にも学園にも幾重にも張り巡らされている守護結界に、阻まれることがないからだ。
悪意や害意を阻む守護結界は、特定の誰かへの悪意や害意を持つ者を弾いているわけではない。相手がどんな人間であっても、誰にでも悪意や害意を持つことが許容されないのだ。
反面、それらを自省し、自らの心からそれらを消したならば、一度弾かれた人間でも、次は通り抜けることが出来た。守護結界は、その瞬間瞬間の悪意や害意を感知する。また、守護結界の中にいる者が新たに悪意や害意を持った場合、該当する人物を弾き出すということをしない。一度出てしまうと入れなくなるというだけだ。
人々の身の潔白は、何度も結界の出入りをすることでしか証明されなかった。
僕はこの結界に抜け道があることを知っている。そして僕自身、それらのボーダーのぎりぎりにいるということも。
何せ僕は自身の部屋にさえ、弾かれたことがあるのだから。もっとも、すぐに考えを改め、直後に入室は叶ったのだが。
だからこそ僕は善人ではない。ギリギリで結界に弾かれない程度の悪人なのだ。
アツコはその辺をしっかり看破しているのだろう。本当に敏い女性だと思う。敏く、清く、正しい。
僕が先の言葉と共に、アツコに呆れた顔をされたのは、あくまでもティアリィには気づかれないようにしている、僕のティアリィへの囲い込みが度を越して彼女の目に映ったからだろう。
ティアリィは学園で、僕たち以外とはあまり親しくできていない。
他に友達がいないというわけではなかった。
それなりに話をするクラスメイトはいるし、それでなくともティアリィは話しかけやすい雰囲気を持っていて、会話を交わす生徒の数も多い。だが、そんな彼らとどれぐらい親しいのかというと、それほどの親しさは持ち合わせないのだ。
理由は僕。僕自身がティアリィから離れないから。ついでにティアリィに、意図のある眼差しを送る者には彼の後ろから容赦のない牽制をかけている。
僕のいる場所でこの存在に下手な声でもかけようものなら、わかっているのだろうな、という脅しも兼ねて。
ティアリィには気づかれないように、細心の注意を払っているけれど、アツコには隠していないので、彼女にはバレバレなのだ。その度に呆れた目で見られるのはとても解せない。
僕は僕で必至なだけなのだけど。
いくら現状、ティアリィとアルフェスが上手くいかなさそうだからと言って、二人が今だ婚約者同士であることは変わらず、僕はティアリィに好意を伝えられないのだから。
アツコは折に触れ、ティアリィが一緒じゃない時を狙って、幾度か僕に苦言を呈した。
今のような小さな嫌味や、呆れたような溜め息、他も。
多分アツコは、ティアリィを慮っている。彼に気付かれないように囲い込む僕に、抱いている危惧もあるのだろう。それでいて何もできず、ティアリィにも伝えられず、僕への苦言という形であらわしているのだ。
「でも、それってそんなにいけないこと?」
僕がそう訊ねるとアツコは黙った。
僕は性格が良くない。そんなこと、ちゃんと自覚している。加えて幼い頃、世界に倦んでいた影響か、僕は面白いことが大好きだ。人の普段とは違う姿を見るのは、どんなものであれとても楽しい。
その所為で学園に入ってからの僕は度々やらかしていた。とはいえ、大したことはしていない。ただ、元々ある火種に薪をくべて、少々騒ぎを大きくするのに助力するだけ。たったそれだけで人々はたくさんの表情を僕に見せてくれて。
僕にはそれが楽しくて仕方がなかった。
アツコにもティアリィにも呆れた目で見られるのだが、構わない。
確かに、入学早々、半強制的に生徒会に入らざるを得なかった僕に付き合って、一緒に生徒会役員となったティアリィもアツコも、勿論、僕も何某かの行事ごとの度に忙しくしている。
僕がその度、小さな騒動を大きく広げるものだから、彼らの手間はより増えていることだろう。呆れられても仕方がない。それでも彼ら二人は僕を見限らず、僕は僕で、二人に見限られないぎりぎりのラインを図って騒動の拡大に注力していた。
だからアツコも言ったのだろう。僕の性格が悪いと。
否、今目の前で繰り広げられている攻防に対する、感想も含まれているだろうか。
学園に入学して一年は、ひどく慌ただしく過ぎた。先に述べたように生徒会には入らざるを得なかったし、僕が楽しめそうな騒動も幾度か勃発した。その度にティアリィとアツコと共に奔走し、また、そうして奔走することそのものも楽しく。
きっと、これからだって楽しくできるだろうと思いながら、目の前の攻防を眺めている。
目の前にいるのは、ティアリィとアルフェスだ。
僕らから遅れること1年、予定通り入学してきたアルフェスは、なんと言えばいいのか、以前よりその強烈さを増していた。
つまりティアリィへと、変な迫り方をするようになっていたのだ。
アルフェスに初めて会ったアツコは眉根を寄せ、どちらかに助け舟を出すこともせず、笑って二人を眺めているだけの僕に、性格が悪いだなんて言ったのけた。
「それに君、あれ、どうにかできる?」
アツコはやはり返す言葉を持たない。目の前では、様子のおかしいアルフェスに、ティアリィの腰が完全に引けている。
今日はアルフェスの入学式で、僕たちは軽く言葉を交わすだけ、のはずだったのだけど。
どんな流れでこうなったのだったか。
アルフェスがティアリィの手を取った。両手で握って身を屈め、わざわざ上目遣いでティアリィを見ていた。あの角度を、もしやアルフェスはかわいいとでも思っているのだろうか。ティアリィよりよっぽど体格もよく、幼いながらもどちらかと言わずとも男らしい見た目のアルフェスがああいう仕草をすると、逆に視覚の暴力たり得るなと思う。あれ、ティアリィだったらきっとかわいいだろうに。
だがティアリィはそんなことはしない。
ある意味で愉快な二人の攻防を見ながら、さて、どこらへんで水を差そうかなと見極めつつ、僕はこれからの学園生活に思いを馳せた。
僕がティアリィを手に入れるための……――残り五年のそれを。
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