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2・学園でのこと
2-3・アルフェスと言う少年
しおりを挟むアルフェスは、なんと言えばいいのか端的に言ってしまうとあまり頭が良くない。
と、言うよりは思考が単純で物事を深く考えず、敏くもなく、その場の雰囲気を察するということも苦手だった。その辺り実はルーファ嬢の方が、少なくともアルフェスよりは優れている。
その上、何か困るとすぐに自分の持つ膂力に頼る所もあった。アルフェスに自覚はないだろうが、やっていることは結果的にただの武力による脅しだ。
家庭環境の所為もあるのだろう。否、ティアリィやルーファ嬢と週の半分は一緒に育ってきた以上、環境の所為ばかりにもできないだろうか、それとも、むしろそれによってティアリィが甘やかした結果だろうか。
僕達三人が生徒会に所属していることを知って、アルフェスは明言しないまでも入りたそうな様子を見せた。少しでもティアリィと同じ時間を過ごしたいのだろう。僕も同じ気持ちだからわかる。かわいらしい恋心だ。しかし、僕とティアリィはそれを許容できなかった。アルフェスの恋心故ではない。単純に彼の能力の問題で。
アルフェスのことをまだよくわかっていないアツコが、気の毒に思ってだろう、彼のことを話題に出したのは、アルフェスの入学から一月ほどが経った時のことだっただろうか。
僕とティアリィは顔を見合わせて首を横に振った。
生徒会にアルフェスを、だなんてとんでもない。僕達の手間と仕事が増えるだけだ。
「なら、風紀委員は? 風紀なら、生徒会ほど書類仕事が多いわけでもないし、何より大柄で武力に優れたアルフェス様なら充分に抑止力たり得るんじゃないかしら」
確かに、風紀委員は学園の風紀を取り締まるという特性上、ある程度の武力が必要となる。アルフェスならと一瞬思うのも解らないではなかった。
しかし。ティアリィと揃って首を横に振り、わかりやすいたとえをひねり出す。
「ティアリィ、例えば二人で喧嘩している生徒がいたとして、アルフェスならどう解決する?」
「二人共を鉄拳制裁。もしくは、その場にある何某かを壊して脅す」
僕の問いに対するティアリィからの応えは淀みない。僕は頷いた。僕も凡そティアリィと同じ意見だから。
「今、言ったのと同じような状況に、何年か前、王宮で行き会ったことがあってね。侍女が二人、何やら揉めていたんだ。たまたま通りすがりに彼女らを見たアルフェスは、止めようとしたんだろうね。彼らの前で、近くにあったツボを握りつぶした。何を揉めているのかわからないけど、二人ともとにかく落ち着いて、なんて言いながら。陶器で出来たツボだ。魔術もなしに膂力だけで、子供に潰せるものじゃない。だけど、アルフェスには出来た。件の侍女二人が怯えながら教えてくれたよ。同時に心配もしていた。アルフェスは大丈夫なのかってね。わからないでもない。いくら自分に注目を集めるためだとは言え、アルフェスの行動は度を越している。そんな理由で次々にたまたま近くにあった何かを壊されていたんじゃ、しまいに対応しきれなくなる」
同じ話を知っているティアリィも、深くしみじみと頷いていた。
勿論その時、アルフェスには得々と説いた。ティアリィだってその時ばかりは甘やかさずに、言葉を選びながらではあったけど、随分長くアルフェスに説教していた。しかし。
「その場ではアルフェスだって、殊勝に謝るんだよ? 反省もする。でも、根本が理解できないから、すぐにまた同じようなことを繰り返すんだ。ただ、壊すものがツボから他の物に変わるだけ。王宮内でアルフェスに壊された物は両手では収まり切れない」
それでも理由がないわけではなく、悪意や害意の結果ではないゆえに全て結果的に許されてきていた。
「スチーニナ侯爵家っていうのはね、元々、代々そういう所があるんだ。あれはもう血だね」
親から引き継いだ素質だとしか思えない。
この国はとにかく善意からの行動には寛容な部分が強くて、余程でない限り行動理由が善意なら許されてしまう。風紀委員はそうであることを前提として、それでもなお目に余るものを取り締まる機関だった。
だからこそアルフェスに務まるとは思えず。とかく短絡的な思考をしているアルフェスには、あまりに大きな権限は持たせられないのだ。――……実の所、アルフェスの母親である近衛騎士団長も似た部分があるのだが、彼の場合は副官や補佐官がフォローしている。否、その為の副官や補佐官だった。ちなみにその副官がアルフェスの父親なのだが、アルフェスには今はまだ、彼のフォローが出来るようなものが近くにいない。多分ティアリィがその役目を期待されていたのだろうけど……そちらは僕が許容できなかった。ティアリィ自身も望んでいない。使おうと思えば、多分アルフェスは使える。あの武に偏った能力値が得難い物なのは確かだった。だが、そうまでして彼に助力を請う理由も気概も、僕らには存在していなくて。
僕達の話に、アツコは何とも言えない顔をしていた。
アルフェスが風紀委員や生徒会に向かない理由は、アツコにも充分に伝わったのだろう。
「アツコ、つまりそういうことだ」
そう占めた僕にアツコは頷いて、それ以降二度と、アルフェスに役職をなんて間違っても口にしないようになった。
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