【完結】婚約破棄して欲しいとか言ってません!

愛早さくら

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2・編入と遭遇

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 私は貴族になんてなりたくなかった。そもそも元が平民の私が、いきなり貴族学校になど入ってやっていけるはずもなく、義父に引き取られてからこちら、必要だと勉強の時間を多く割り当てられはしたが、当然、生粋の貴族として生まれた者たちにそんな付け焼刃の学力が叶うはずなどない。
 だからせめて私はそれらが少しでも他の生徒たちに並ぶよう、せっかくだしせいいっぱい勉学に励もうと思っていた。
 そう、思っていたのに、初日からの失敗に、私は頭を抱えるしかなかった。
 何度も言うが、私は少し前まで平民だったのだ。
 貴族ゆえのたしなみだとか礼儀だとかなどあまり多くはまだ知れていないし、他の貴族のことなんて、ろくに覚えてもいない。そんな機会など全くなかったのだ、誰のこともわからない。
 当然、王族の顔さえ知らなかった。
 少し前まで平民だった私は、入学式には間に合わず、途中からの編入となった。
 編入初日。
 急いでいた私は、門をくぐって校内に入る直前、一人の少年とぶつかった。
 私と同じか、少し上ぐらいの少年。
 あまりに勢いよくぶつかったせいか、私は相手を弾き飛ばしてしまったのである。
 当然私は謝った。

「す、すみません! 急いでいて前を見ていなくて! あの、大丈夫でしたか?」

 相手の顔をのぞき込む。
 物凄くキレイな顔をしていた。
 私はこれまで生きてきて出会った中で、一番美しい顔をしているのは、私の父親だと思っていた。
 だが、この相手はそれ以上だ。
 私は一瞬、ぽーっと相手に見惚れてしまった。
 何故か、相手も私を見つめている。

「なんてキレイな人……」

 思わず呟いて、しかしすぐにはっと我に返る。

「え?! あ、あの! 本当にすみません!」

 ぺこぺこと頭を下げて何度も謝る私に、少年は明確に気分を害したと言った風に眉をひそめて。

「……お前、この私の顔を見て何も思わないのか」

 重々しくそんなことを言ってきたのだが、わからなくて首を傾げる。

「えっと、あの……キレイな顔だとは、思いますが……?」

 それ以外に何があるというのだろう。
 困り果てる私を見上げて、少年はやがてふいと視線を逸らせた。

「もういい」

 吐き捨てて一人でさっと立ち上がる。

「あの! 本当にすみませんでした!」

 改めて頭を下げる私を、少年は顔を歪めたまま睨み、やがてふいと顔を逸らした。

「ふん」

 偉そうに鼻を鳴らして、そのまま何処かへと歩き去っていく。
 私は唖然としてその背を見送った。
 最後の方とか特に、物凄く態度が悪かったように思うのだが、貴族というのはああいうものなのだろうか。わからない。

「なんだったの、今の……」

 この時の私は本当に知らなかったのだ。
 まさかあれが、この国の第三王子だっただなんて。
 しかも王子様ともあろう者が、学園内に限り、護衛をつけておらず、一人でふらつくことがあっただなんて。
 しかもしかもしかも。あんな出会いであったにもかかわらず、何故だか気に入られてしまうだなんて。
 私は本当に、思ってもみなかったのである。
 編入初日の、出来事だった。
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