【完結】婚約破棄して欲しいとか言ってません!

愛早さくら

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7・王子の婚約者

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 ルピオダイル王子には、そのような状況にあるにもかかわらず婚約者がいた。
 ミオシディアというコラジエル伯爵家のご令嬢である。
 そして王子はその婚約者のことを蛇蝎のごとく嫌っていた。
 ミオシディア嬢との婚約はどうやら聖王が決めたものであるらしく、それもまた王子が嫌がる原因であるようだった。曰く、

「父上はミオシディア嬢のことをお褒めになっておられた。私の方が美しいのに!」

 つまり嫉妬である。私からすると嫌悪しか抱けない相手なのだが、王子はお父君である聖王陛下を、非常に慕っていらっしゃるのだ。
 だからこそ聖王陛下がお認めになっていらっしゃる婚約者が受け入れられないのだろうと思われた。
 実際ミオシディア嬢は非常に美しいご令嬢だった。
 私も、父に似て可愛らしいと言える容姿をしている自覚はある。だが、私の見た目があくまでも可愛らしい印象であるのに対して、ミオシディア嬢は美しいというに相応しい美貌を誇っていた。
 それこそ、やはり顔のキレイなルピオダイル王子と並んでも遜色ないぐらいには。
 どちらがより、というようなことはなく、お二人は同じぐらいにお美しかった。
 だが、だからこそなのだろうか、どうも王子はミオシディア嬢に嫉妬しているらしく、ミオシディア嬢の何もかもが気に入らないようなのである。
 なお、ミオシディア嬢自身は、見た目が良いだけではなく、素晴らしい人格者だった。
 元平民でしかない私を悪しざまに罵ることがない、どころか、大変親切に接して下さり、どう控えめに考えても王子に振り回されている私に同情的で、王子と接する苦労を分かち合って下さった。

「全く、あの方にも困ったものです。貴方も苦労なさいますわね」

 そうおっしゃられただけでも、私の中の好感度は下がることを知らず上がる一方で。
 なのに。

「何をしている、ミオシディア! もしやまたアリアに何かを言っていたんじゃないだろうな?!」

 またも何も、今、私とミオシディア嬢は簡単な挨拶の延長線上にあるような言葉を2、3交わしていただけである。
 そもそも私は一度として、ミオシディア嬢に意地悪なことなど言われたことがない。
 時には庇ってさえ下さる方なのに。

「殿下?! 何をおっしゃってらっしゃるのです? 私たちは今、挨拶を交わしていただけでございます」

 急ぎ否定する私の言葉を、相変わらず王子は少しも聞かなかった。否、通じなかったといった方がいいだろうか。

「こんなやつを庇う必要などない、アリア! 慈悲深さはお前の美点だが、相手は選ぶべきだっ! 少なくともこのような女にお前の慈悲などもったいないっ」

 あまりの言い草に、私は卒倒しそうだった。
 しかしミオシディア嬢はそんな王子の言動に最早すっかり慣れておられるのか、

「よいのです、アリア嬢。いつものことですわ」

 と、頑是ない子供を見る瞳で王子を見、微笑みさえ浮かべていらして。

「ミオシディア様……」

 あまりに寛容なミオシディア嬢に感動して、同時に王子の誤解一つ溶けない自分が情けなくて、へにょりと下がった眉尻が、しかしますます王子の誤解を加速させていく。

「ああ、アリア、それほど悲しげな顔をするなんて、いったいこの女にどれほどのことを言われたのだっ?! もう相手にしなくていいんだ、いくぞっ!」
「そのようなこと、言われておりませんっ! お待ちください、殿下!」

 相変わらずわけのわからないことを言い、私の手を容赦なく掴んだ王子がそのまま私の手を引き、その場から立ち去ろうとする。
 王子の手をまさか振り解くわけにもいかず、引きずられるまま半ば強制的に歩かされる私に向かい、ミオシディア嬢は気にしなくていいとばかり、首を横に振った。
 ミオシディア嬢の表情は、仕方がない、この王子には何も通じないと、まるで物語るかのようなものだった。
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