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x・それから
しおりを挟む国を出て、無事家族と合流できた私たちはソーシェが進めるがままに隣国となるマシェレア共和国に腰を落ち着けた。ソーシェの実家がある国である。
他の国に渡ったらしいミオシディア嬢とはあの後も幾度か手紙をやり取りして、実際に会ったりもした。今ではすっかり仲の良い友達のようになっている。
彼女は本当に素晴らしい人なのだ。美しく聡明で、穏やかで誠実で優しい。どう考えてもあの王子にはもったいなかったとしか思えない。
そして、子供の時から感じていたソーシェからの好意は、勘違いではなかったらしく、数年のお付き合いを経て、私はソーシェと結婚した。
私はずっと本当に好きだった人と結ばれることが出来たのだ。
幸せだった。
だけど、幸せを感じれば感じるほど、あのかわいそうな王子様のことを思い出した。
結局、私もミオシディア嬢もあの王子を一人、国に置いてきてしまった。
勿論、共に連れてくることなどできるはずがなかった、そんなことはわかっている。
それでも彼が向けてくれていた好意を思えば、罪悪感を抱かずにはいられないのだ。たとえ全く理解できず、わけがわからない存在だったのだとしても。
「まだ、思い出すの?」
ソーシェに訊ねられ、私は小さく苦く笑った。
「忘れられないよ。だって強烈だったもん」
聖都での、学園での生活は、いいことなど何もなかった。周囲からはいじめられたし、嘲笑や侮蔑を浴びせかけられる悔しさを知った。
そしてどうやっても救えない存在があるということも。
あれから何年もたって、代替わりして、ようやくあの国は少しまともになれたらしい。
ただし、あのかわいそうな王子様のその後については何も聞こえては来ない。
父親である聖王に、がんじがらめに絡め取られていた、見た目だけは美しい王子様。
私は決してあの王子様のことを嫌いではなかった。近づきたくはなかったけど。でも。
「きっとみんな幸せに暮らしてるよ」
ソーシェの言葉が気休めであり、何の根拠もないものであることはわかる。だけど私は頷いた。
「そうだね。そうだといいなぁ」
それはただの希望だ。
あの学園での日々はわけがわからないことだらけだった。あの最後の日でさえ。
「そう言えば、いまだにわかんないんだけど、私、婚約破棄して欲しいとか言ってないんだけど、王子は誰にそんなこと聞いたんだろうね」
もっとも、だいたい王子の話なんてわけがわからないことだらけだったのだけれど。
「さぁ? 君やミオシディア嬢を嫌いな誰かだったんじゃない?」
そんなのはあの学園にたくさんいそうだった。きっとそのうちの誰かだったのだろうと納得して、私はそれきり、あの頃のことを思い出すのをやめた。
今はもう遠い。
それらは、出来るだけ思い出したくない、だけど時折思い出さずにはいられないいつかの日々だった。
Fine.
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