【完結】婚約破棄して欲しいとか言ってません!

愛早さくら

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16・別れと、そして

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「よかった、無事に出て来れたんだね」

 ソーシェはほっとしたという顔をして笑った。
 私は戸惑ってミオシディア嬢の方へと振り返る。彼女は微笑んで頷いた。

「フデュク商会にはいつもお世話になっているの。少し前から幾度かお話をさせて頂いていて。こういうこともあるかもしれないとは、思っていたから」

 フデュク商会とは、ソーシェの実家が営んでいる他国に拠点を置く大きな商会だった。
 どうやらミオシディア嬢はそちらとつながりがあったらしい。

「急に連絡をもらってびっくりしたよ。こんな何でもない日に予告も予兆もなく、突然あんなことをするなんて。王子様には驚くばかりだ」

 学園を出てすぐに、小走りに去っていった侍従はどうやらソーシェの元へと向かっていたらしい。
 そしてここで落ち合った。
 周りを見る。もしやここは聖都のはずれか、あるいは。

「まだ、聖都の中だよ。でもこのまま国境まで走って隣国へ抜ける。ここからだと一番近いのはルティルだから、そちらへ向かう予定だ。多分、急げば止められることはないだろう」

 そもそも、ルピオダイル王子の扱いは王子ではない。それほど重要でもない王子の望む婚約者候補ごときになど、おそらく聖城は人員など割かないと、私の疑問に答えるかのようにソーシェは告げた。
 だが、あのまま学園に残っていたら、今後どうなっていたのかなど全く予想がつかない。
 ちらと、家族のことを思う。
 優しい義父と可愛がってくれた母が気になった。
 ソーシェをうかがうとにこりと微笑む。

「ひとまず馬車に乗ろう。君が心配するようなことは何もないよ」

 私は頷いて、ミオシディア嬢へとお礼を告げた。

「本当に、ありがとうございました。なんとお礼を言えばいいのか……」
「いいえ。一応は婚約者という立場にありながら、わたくしは殿下をお救い出来ませんでした。せめてあなただけでも間に合ってよかったわ」

 殿下の行動を、諫めることもできなかったと嘆くミオシディア嬢へと私は首を横に振って、更に感謝だけを重ねた。
 今、私が王子と離れられたのも彼女のおかげだ、本当に感謝している。

「フデュク商会がついていてくれるのですもの、きっとあなたも大丈夫よ。これからのあなたが心安らかに過ごせるように祈っているわ」
「ミオシディア様も。どうかお元気で」

 あたたかな真心に胸を一杯にしながら、私も彼女のこれからを祈った。
 そうしてひとしきり名残を惜しんで、ミオシディア嬢と別れ、ソーシェと共に別の馬車に乗り込む。
 先程までの貴族らしい馬車と違って、少し粗末な商人らしい馬車は、しかし決して乗り心地が悪いわけではない。

「それにしても、本当に無事合流できてよかった。心配していたんだ。ああ、君のご両親だけどね、国を出ることになっているんだ。きっと先にマシェレアで待っている。事情を伝えたら迷わなかったよ」

 だから今日のことがなくても近々、国を出ることを、私に提案するつもりだったのだとソーシェは言った。
 子爵領にいる両親にも、以前から彼は私の現状を伝えてくれていたのだそうだ。
 子爵である義父も、当然母も、はやり信心深くはなく、特に聖王と会ったことがあり、聖城のことを知っている義父は眉を寄せ、深く溜め息を吐いて、貴族の義務だからと言って、私を聖都の学園に入れたことを深く後悔していたのだという。
 なんでも親戚からきつく、せめてと言われてのことだったらしい。
 少しでも親戚からの私と母への風当たりを、父なりによくしたかったのだとか。
 そして父は、子爵領など、欲しい者にくれてやると、親戚に丸投げすることを決めたのだとか。私と母だけがいればいいのだと。
 嬉しかった。私は両親に愛されている。実父についても、実はソーシェは探してくれていて、でも結局わからないままなのだそうだけれど、それはもう何年も前のことで、諦めがついている。
 ほっと、安堵したら涙が出た。
 ぼろぼろと長く泣き続ける私を、ソーシェはそっと抱きしめてくれた。
 いつの間にか辺りは暗くなっている。もうすっかり陽が落ちていた。
 程なくして聖都を無事出ることが出来、そのまま馬車はしばらく走り続ける。国境を越えてなお、誰かに追われるだとか言うことはついぞなかった。
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