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55・優しさと、⑥
しおりを挟むなんだか息苦しく感じられた。
だけどそれを表に出すことはできない。だって僕は皆に心配をかけたいわけではないのだ。
だが、吐き出す先のない息苦しさは、だんだんと僕を追い詰めていくばかり。
日々が過ぎていく。
一日、二日、一週間、二週間と。
皆は、何も変わらない。
ラセア殿下も、また。
僕は大切にされている。
わかっている、わかっているのだ。
皆も、それを当たり前に思っている。
なのに僕はそれが不満で。かと言って自分の胸の内を、打ち明ける相手もいなかった。
元々僕の趣味について知っているのはお母様と、お母様と特に親しい女官長ぐらい。
他は僕付きの侍女も護衛も誰も知らないままだったようなものなのだ。
実家にいた時だって、僕は趣味のことについて、誰かに言ったりしなかった。
お母様や女官長が趣味について知っていると言っても、それは本当に知っていただけで、別に彼ら彼女らに詳しく話すわけでもなく、自身の作った玩具を見せるわけでもなく。
そもそも、閨の中、自分で自分のそんな場所に玩具を入れて楽しむだなんて、誰かに言いふらしたり、誰かと共有したりするような趣味ではない。
もはやすでに朧気になっている前世の記憶の中でも、僕は誰にも内緒で、1人で楽しんでいた。
それは今も同じ。
だから、これは当たり前のことで、だから、誰にも言えないのなんて今更で、なのにどうしてこんなにも、僕は今、息苦しさを感じているのだろうか。
そもそも僕が見た目から、なんだか過分な評価を受けるのは小さい頃からのことなのだ。
お母様や僕の容姿は、妙に皆に良いように受け取られるようだという自覚ぐらい僕にはある。
否、前世の自分と比べても、今の僕の容姿はとても良いものであることは僕にもわかっていた。
母はあまり自覚がないようだが、それより僕は自覚できている自信がある。
僕は見た目がいい。と、言うか顔の造作は信じられないぐらい整っていて、時折自分でも鏡を見てぎょっとするぐらい。
僕自身が驚くぐらい、僕は何をしても何もしなくても悪く受け取られるようなことがなかった。
それが、僕自身の魔力の多さや見た目、また出自ゆえだということは僕もちゃんとわかっていて、だから、皆が過分に評価するのも、ある程度は仕方がないことだとは思っている。でも。
清らかは、わからない。
僕は今、21歳。
すでに成人して3年も経っている。
成人年齢が国によって多少差があるとは言え、この近辺の国で、21歳が未成年であるなどと言うような国はない。
つまり大人だ。
そしてすでにラセア殿下と婚姻を結んでいる。
勿論、皆それぞれに事情があるので、必ずしもすべての夫婦が婚姻後すぐに閨を共にしているとは僕だって思っていない。
だけど僕とラセア殿下の間で、閨を共にしないような特別な理由があるようにはどう考えたって思えないのだ。
少なくとも僕は求めているし、ラセア殿下が、僕に対して欲を持っていないとも思えない。
だってまたにラセア殿下が反応していらっしゃるのはわかっているから。それをいちいち指摘したりしないだけで。
何より毎夜、ラセア殿下は僕と別れて寝支度を整えに行く時、名残惜しそうな様子をお見せになるのである。
ならばこそ、とそう思った。
だけど僕は自分から、何かを言い出すことが出来なかった。
はしたない、そう思われたくなくて、否、ラセア殿下のお持ちになっている、僕という存在に対する印象を大きく崩してしまいたくなくて。そんなことを思っている自分自身が、なんだか浅ましく思えて、胸が苦しくて。
どうにもできないまま、時間ばかりが過ぎていく。
気が付けば僕はそんな風、あのお茶会からすでに三ヶ月ほども過ごしているようだった。
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