悪役王妃(♂)は後宮で国王陛下に愛される

愛早さくら

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 俺が前世の記憶を所持していることは、物心つく頃より、母も把握していたことだ。
 その上ではじめは、何か問題があるとは考えられていなかった。
 ままあることなのだとも学んだし、こと、我が国、ナウラティスで、王宮内で守られている俺が、何らかの悪意に晒されるわけもない。なにせ王族なのである。加えてナウラティスでは、人の悪意や害意を弾く結界がそこかしこに張り巡らされていて、加えて王族に相応しい魔力の多さを誇る俺を、害せる者など早々おらず、なんとも平穏に育てられてきたものだと思う。
 雲行きが怪しくなってきたのは、文字を書けるぐらいまで成長した俺が、前世のことを色々と書き連ねるようになって、それを母が読んでからのことだった。
 何せそこに記されていた人名や国名の一部が、実際にこの世界で存在しているそれだったのである。
 母はもしやと念の為、調べたのだと言う。
 俺の覚書にある名前など全てを。
 そこで明確に危惧されたのは、ゲーム、悪役、王妃、そしてルティル王国の名と、その国の王太子、レウラードのことだった。
 おまけにそれらが判明するちょうど1年ほど前に、式典か何かの折、件のレウラード自身がナウラティスを訪問し、俺と顔を合わせていたというのである。
 その時の俺はあまりに幼く、教育などすら施される前であり、顔を合わせたと言っても、ほんの短い一瞬、遠目にお互いの顔を確認できただろう程度。特にレウラードの名前や出身国なども、伝えるような状況ではなかったというのだから、教えられていない俺がそれらを知っているとも思えず、覚書にそれらの名称が出てきたことはやはり前世からの影響だとしか考えられず。おまけにほどなくして、件のルティル王国から届けられた要望に、母は頭を抱えたと言っていた。
曰く、俺を名指しで、王太子レウラードの妃にと。そう、望むものだったというのだから。
レウラードはなにやら、数年前、一目、目にしただけの幼い俺を、強く望んでいるということであるらしかったのだから然もありなん。

「いくらお互いに王族で、年齢的に釣り合うだろう王子がディリーだけ、ディリーが第三王子だとはいえ、ルティルは小国だぞ」

 とは母の言。
 大陸中でも五指に入る大きさを誇る帝国ナウラティスと小国のルティルとでは、釣り合いが取れているとは、とても言えないような国力差があったのである。
 しかし反面、それは断ってしまえるだけの理由にもならなかった。
 他にも小国に嫁いだ姉はいるし、やはり、何を言っても第三王子というのも大きい。加えて両親は健在で、他にも兄弟がいる。
 承諾はせずに引き伸ばし、成長した俺に委ねることにしたのは、何より俺自身の今後を左右することを、前世の記憶などから懸念があると、母が勝手に決めてしまうのはどうかと思ったからだ、という話だった。
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