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12・この国の王族
しおりを挟むそんなことがあり得るのだろうか。
魔法の使えない俺にはわからない。だが、実際に起こったのだからあり得たのだろう。
「探したよ。必死になって焦って。幸いにしてすぐに見つけられてよかったけど、駆け付けたら君がいた」
それが全部だとアーディが言う。なるほど、と俺はわからないなりに納得した。
そんな風に、他にもいくつか投げかけた質問に、アーディは過ぎるほど丁寧に答えてくれた。
なぜ、皇帝なんて言う立場で、俺のような冒険者の噂なんてものを知っていたのかと聞くと、なんと、アーディのすぐ下の妹が冒険者として旅をしているのだそうだ。妹ということは、あの子供の姉だ。
今は何処にいるのかすらもわからないらしく、それもあって、冒険者だとかいうような情報も、なるべく広く集めるようにしているのだとか。
「実際ちらほら妹の噂も聞こえてきたりするよ。それを聞いて、ああ、元気そうだなって判断してる」
噂が聞こえてくるということは、もしかしたら俺も、聞いたことぐらいはある存在なのかもしれない。
それにしても、王族の姫が冒険者。それも何処にいるのかさえもわからなければ、連絡の一つもないのだとか、自由すぎやしないだろうか。
「うーん、妹は子供の頃から自由でね。母も手を焼いていたよ。城下に降りるのなんて当たり前、ダメって言ってもスラムに出入りする、終いには国を出て行ってしまって。ま、元気でやってるならいいんじゃないかな」
それでいいのだろうか。ある意味では、この男の妹らしいと言えなくもない気がした。
しかも、他にも兄弟はいるらしいのだが、それぞれ、他で爵位を継いでいたり、他国に嫁いだりだとかしていて、あの子供以外、今は誰も近くにいないらしい。
それもあってあの子供は現状、ことさら丁重に扱われているのだとか。
「そう言えば去年即位したばかりだとさっき言っていたようだが、先代に不幸が?」
子供が生まれてそれほど経っていなかったのなら、さぞ心残りだっただろうし、お母君の苦労がしのばれる。あるいはもしやそちらも一緒に……なんて思わずしてしまった邪推は、驚いたようなアーディの否定に遮られた。
「え?! 全然! ピンピンしてるよ! 元気元気。今はね、ここぞとばかりに取り戻した新婚生活を満喫中。ようやく肩の荷が下りるってすっきりしてたなぁ。すぐに母様を連れて寝室にこもろうとするから、会う度に母様がぷりぷりしてるよ。それもあって今日もね、あの子、朝からこっちにいて。癇癪もさぁ、母様に会いたかったみたい。僕じゃダメなんだって。今頃は報告を受けて父様を振り切った母様があの子の所に駆けつけてる頃じゃないかな。あれ? もしかして君が今まで見てきた国だと、代変わりって、先代に何かあってからとかばっかりだったの?」
加えて、何と応えればいいのかわからなくなるような話までされる。寝室にこもるだとか、新婚生活だとか、それはつまり。
……不幸があったわけではないのならよかったと思うしかない。
僕じゃダメと肩を竦める様子はあっけらかんとしていたが、少し寂しそうにも見えた。
懐いているようだったが、それでも母には敵わないらしい。それが親子というものなのだろう。
最後の問いには、首を縦に振った。
とは言っても、今まで王族だとかいう存在になど関わったことがなかったので、噂に聞いた程度ではあるのだけれど、てっきり、王位を継ぐということは、そういうことだと思い込んでいた。
この国はそうではないらしい。
「ははは。うちじゃ皇帝位なんて押し付け合いみたいなもんだよ。なりたがる人の方が少ないもん。王族自体は結構いるんだけどね」
アーディ自身も、兄妹は少なくないのだとか。同父母だけで4人。他に養子もいるとのこと。
そうではなくとも、アーディの父にも兄弟はいるし、母も一人っ子ではないだとか言われても、やはりなんと返せばいいのかわからなかった。
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