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47・護衛依頼⑨
しおりを挟むそんな俺達の様子に、勿論、同じ馬車に乗っている商団の者が気付かないはずがない。
「なんだ、お前たち付き合ってるのか」
なんて呆れたように言われ、なんと返せばいいのかわからなくなった。
アーディはどうやら、依頼主などとはあまり話さないでいようと思っているらしく、不自然じゃない程度に口を噤んでいる。
今の話の流れからだと、照れているとでも思われる程度であることだろう。
つまり、俺が何かを返さなければならないわけで。さて。
「えーっと、その……」
付き合っている、のかと聞かれると、違う、ということになる。
少なくとも、付き合っている、わけではない。
だが、先程の会話はどう聞いても、付き合いたての恋人同士などの会話にしか聞こえないようなものだっただろう自覚ぐらいあった。
「い、今! く、口説いている、最中で……」
これぐらいでいいだろうか、何とか絞り出したのはそんな言葉。
だけど俺の発言に反応したのは話しかけてきた商団の者ではなくアーディだった。
否、何かを言ったわけではない、ないのだけれど。
一瞬、俺を信じられないものでも見るかのような、驚きに満ちた目でぽかんと見つめたかと思うと、次の瞬間にはぼっと、先程までの比じゃないぐらい顔を真っ赤に染め上げて、ばっと顔を逸らしたのである。
いったい何なのかその反応は、そこで俺もようやく、自分の口にした言葉の意味を理解し始める。
咄嗟だったとはいえ、俺はいったい何を言ったのか。
商団の者は何とも言えないといった様子で、呆れたような生ぬるい表情で俺達を見ていた。
そして、
「……そうか。まぁ、頑張れ……護衛だけはしっかりしてくれな」
力なく励まされ、控えめに釘だけ刺されてしまった。
「あ、は、はい、勿論……」
俺もぎこちなく請け負って返し、その間アーディは真っ赤な顔で俺から顔を逸らしたまま、ある意味では先程までと同じよう、幌の隙間から外を見ている。
違うのはあれほどまできらきらと輝いていた瞳が、今は多分、そんなことはなく、そして外を見ているわけじゃないんだろうなというのが伝わってくることぐらいだろうか。
そんなアーディは結局やっぱりかわいくて。
俺も顔を赤く染めて、気まずく口を噤むことしかできなかった。
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