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XX-2
しおりを挟むシェラの話を聞いてからすでに一ヶ月。
つまり、同時にシェラと離れて一ヶ月経っているということでもある。
俺の周囲は何も変わらない。ラティは相変わらず過保護だし、子供も順調に大きくなっている。
俺が何かに不安に思うこともなく、周りにいる侍従や他の者たちも皆優しい。
ああ、行動範囲が少し広がっただろうか。もちろん、いつかのよう、ラティに心配をかけるような無茶なことはしないし、そうは言ってもラティの執務室ぐらいまでだ。
女官や侍女、あるいは侍従に見繕ってもらった恋愛小説を読んではにまにまして、だらだらして、ラティと仲良くしたり、子供を構ったり。
正直、ラティとの時間もあって、そもそもあまり出歩けず、けれどそれを嫌だとは思わなかった。
満ち足りているとさえ思う。
侍女の中で、俺と小説の好みが合うものが何人か見つかったのも大きいかもしれない。
彼女たちと時折、あれが好きだ、これがいい、この本の描写がよかった、などキャッキャとはしゃぐのも楽しくて。けれど。
たまに、寂しくなる。
シェラと距離が出来て、ラティとシェラを同時に目にする機会が本当にほとんどなくなって。孤独を感じるはずなんてないのに、それでも。
「寂しい?」
ある朝、執務に向かうラティを見送る俺が、気落ちして見えたのだろうか、訊ねられ、少し考えた。
ややあって、ゆっくりと首を横に振る。
少しばかり、もやがかかったままだった記憶は、今では随分とはっきりしていた。
遠く思える部分が合ったルニアのことも、今では間違いなく俺自身だったのだと認識できている。
何処までも、シェラに縋っていた俺。
いくら人並み以上の知識などがあっても、何も知らず、柔らかな何かにくるまれ、守られていただけの俺。今も大きくなんて変わらない、変わらない、けど。
寂しい部分がないわけでもない、けど。
もう少しだけ、考えて、躊躇いがちに口を開いた。
「……いや、どうかな。寂しい……うーん」
変わったのは、シェラの顔を、あまり見なくなった、それだけ。全く会わないわけじゃないし、何かを制限されているわけでもない。
何より今、シェラと会っても、あの、話す前に感じていた、わけのわからない不安感などはなくなっていて、むしろただ、シェラの可愛らしさに見惚れられて、以前よりすっきりしているぐらいだった。
それに会いたければ探せばいいし、見に行けばいい。……侍従としての仕事を頑張るというシェラを邪魔したくないなら、こっそりと。
これはまぁ、ちょっと、気持ちの悪い行動かもしれないけれど。
仲良くなった侍女なんかにはたまに呆れられるし、ラティに諫められることもある。
そういう時はちょっとだけ自分の行いを改めたりして。そんな、少しだけ変わった日々は、俺を苛むことなんてない、だから。
「ちょっと物足りない、かも……?」
シェラが側にいる時のあの不安感が刺激になっていたとでも言うのだろうか。まさか、そうではないと思う、そうではなくて。
ラティが呆れた顔をした。
「ルニア……」
そして溜め息。
少しだけ考えて、ラティが小さく頷く。
「うん、そうだな、じゃあ、そんなルニアにいい報告、になるかな? 来週なんだけどね、少し予定を合わせられそうなんだ、だから、」
そうして告げられたのは、子供を連れての隣国への帰郷、もちろんラティも一緒だ。
「気晴らしにはなると思うし、そろそろ顔を合わせてご挨拶もしないとね」
それも国家間転移施設を使えば移動に時間などかからない。
ほんの二、三日にはなるが、あちらで過ごせるだろうというラティの言葉に、俺は目を輝かせた。
これまで通信は何度かしていたのだけれど、時期も時期だからと直接顔を見ることがなかった。
否、一度子供の顔を見に来てくれて、顔自体は合わせていたけれど、両親も立場のある身、長居できるわけもなく。
二、三日とは言え、それよりはきっと少しだけゆっくり共に過ごすことが出来るだろう。
「ラティ! ありがとう!」
言いながら飛びついたら、危なげなく受け止めたラティは、はは、とさわやかに笑って、かっこよくて。そんなラティを至近距離で眺めながら、俺は数か月前の、前世の記憶を思い出した時のことを思い出していた。
混乱して口から飛び出した言葉を。
『いっそ壁にならせてくださいっ』
なんて、今となってはそんなこと、よく言えたものだと思う。俺以外と仲良くするラティなんてものを目にして、冷静でいられる自信なんてない。それでも。
「……俺はやっぱり、傍観者でいたい、かな……」
そんな前世から引きずる願いは変わらない。
「ルニア?」
ぼそと呟いた俺の言葉を聞き咎めたラティに俺はへへと、誤魔化すように笑みを返した。そして。
「なぁ、ラティ、お願いがあるんだ、たまにでいい、たまにでいいからさ……――」
欲望のまま口に出した願いがかなえられたかどうかは――……また、別の話にしようと思う。
Fine.
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ラティさんヤンデレ発言いただきました!
見てるんですねぇやっぱり
ラティさん
主人公くんの違和感まだまだ本人にも分からぬ感覚で迷いのようなものがあるんでしょうかねぇ
感想ありがとうございます!
ラティはだいぶヤンデレです、実は。😇
主人公が受け入れてるからよいものの……見方を変えるとかなり……囲いこんでますしね。
主人公くんは前世はともかく、ルニアとしては自分の違和感とか感情とかを自分の中で整理して表に出すっていうのをそもそもしたことが無いっていう前提があるんですよ〜!
それもあって余計に上手く消化しきれてないイメージです〜!
毎日更新楽しみにしてます。
しかし気になるのはルニアのなくした記憶の断片ですかね。
それさえすっきりすればルニアもこう前世に引っ張られつつも落ち着くのかなぁと。
旦那様ーーーわりと寡黙な方なのかしらとも。
好き好きを結構言葉より行動でやりがちですよね。
感想ありがとうございます〜!
楽しみにしてくださってるとのこと、励みになります!
そうですね、記憶がはっきりすればより気持ちの整理はつきやすくなるだろうなと!
ラティは……雑談みたいなのとかはしますし、寡黙という訳では無いのですが、基本的に言葉を尽くす方では無いかもしれません。
なにせ今までのルニアがあまりに素直過ぎて、ラティの言葉を疑うことがなく、「ラティ様が言うなら間違いは無い」みたいな感じで、言葉を尽くさなくても頷くような子だったので……決定事項しか告げていないところはあるイメージです。
結果的に行動しか示していないとも言えるかもしれませんね……
寡黙ではないけど、言葉足らずではあるのです(´・ω・`)多分。
愛の言葉()とかも、確かに行動の方が多いですね。後、そういうのは性行為中にこそ告げていて、ルニアはあんまり認識してないとかもあります。
ともあれ感想ありがとうございました〜!
引き続き頑張ります〜!
答え合わせ中ルニアくんってとこですかね。
今必死に向き合って咀嚼してたまには脱線して(笑)
まだまだ気になるところです
うわぁーい、感想ありがとうございます~!
似たような表現ばかりのループしてるの?って展開ですみません~><
ですです~
答えがルニアの中にしかなくて、でも肝心の記憶が欠けてるっていう……
脱線させると楽しーんですけど、話が逸れちゃうのが困りどころです(笑)
気にして下さってありがとうございます、引き続き頑張ります~