1 / 11
XX・失恋
しおりを挟む「はぁ?! 好きなタイプ?!」
よくある酒の席でのことだった。
騎士団の団員たちが、ざわざわと色々な話に花を咲かせている。
俺はこういった場を、厳しく取り締まるつもりなんて欠片もなかった。
そもそも、そんなに厳しくして何になるというのか。
息抜きの場というのは必要だと思うし、これをとやかく言うようなら、うちの騎士団の在り方そのものがあり得ない。
もっとも実際に問題がないとも思っていないのだが、理由を踏まえたら、妥当かと思える部分もあって、だから。
ただの、飲み会だ。
気の置けない仲間たちが集って、酒場で酒を飲んでいる。
非番の前の日だとかだとよくある話。
いつもなら俺の横には、まるで番犬か何かのようにマディが陣取っているのだけれど、この日はたまたま離れた席に座っていた。
と言っても、うっすらと声は聞こえる程度の距離なのだけれど。
たまにはこんな時もある。
俺は特に気にせず、他の団員たちと、例えば最近近くに出来た、新しい食堂についてだとか、そこで食べた海老蒸しが当たりだっただとか、そんな他愛のない話に興じていて、だけど不意に耳に飛び込んできた声に、俺は気付けばそちらへと視線をやっていた。
それは他でもないマディの、素っ頓狂な、と言っていい、どこか上擦った声だったからである。
マディの、好きなタイプ?
端的に言って興味があった。
そして実は自信もあった。
俺がそちらに注視したことに気付いていないのか、それとも気づいているから戸惑っているのか、マディと、よく見ると最近入団してきたばかりの新人は、そのまま話を続けている。
否、新人が食い下がっていると言った方がいいだろうか。
「なんでそんなこと聞くんだよ」
「なんでって……気になるからですよ! 憧れの副団長の好みってどんなかなぁ~って! 聞けば副団長、うち特有の『教育』とかにも、興味なさそうだって言うじゃないですか」
「お前なぁ~……オレの好みなんて知ってどうするんだよ。そもそも『教育』って……そんなもん、一部のやつらしかやってないぞ。少なくともオレの隊のやつらには手出しさせてないしな」
そんなことやってるやつもいない。
吐き捨てるマディの言葉に、俺は小さく頷いた。
ああ、そうだ、『教育』などと称されている、うちで密かになくならないあれ。
あれこそ、悪しき文化とか何とか云うやつだろう。
俺もしてないしさせてないから知らないけれども。
ただ理由も含め、黙認しているだけで。
それにうちは純粋な武力がものを言う王立騎士団だ。
あんなもの、自分で対処できなければやっていけない。
最低限のルールは順守させている。
いずれは撤廃させるつもりでいるが、それも、メインとなっている団員が退団してからになるのだろう。
それはともかく、結局マディは好みについては答えないのだろうか。
いつまでも注視していても話しづらいだろうと、今までの会話へと戻りながら、しかし俺の耳はずっと、マディの声をだけ、注意深く聞き取ろうとしていた。
勿論、やはり気になったからだ。
マディの答え何て予想している。予想しているが、それでも聞きたい。
新人らしい、しかし余程酒が入っているのか、新人らしくなく、馴れ馴れしい団員が更にとまだ食い下がっている。
「だぁから気になるんじゃないですか~! 鉄壁の理性! 遊び人のようで硬派! 我らが副団長の好みのタイプは?!」
「なんだそれ。誰が言ってんだそんなもん。あぁ、もうくだらないことを聞くなって」
どうやらマディは答えたくないらしい。
恥ずかしがっているのだろうか。
今更なのに?
それならそれで構わないかと、俺はそれ以上彼らを気にするのを辞めた。否、辞めようとした。だけど。
「えぇ~、いいじゃないですかぁ! ね! 好みのタイプ! 好きな相手を教えて欲しいって言ってるわけじゃないんですからっ!」
「好み、ねぇ……」
どこまで食い下がるのか、新人団員からの懇願に、一瞬、マディの視線が俺へと寄越されたような気がした。
うん? どうした? 結局答えるのだろうか。
いったい何と答えるのだろう。
いや、わかっている、なんて答えるのかはわかってはいるのだが、表現の仕方というものがある。
いったいどういう風に言い表すのかとか、そういう。
俺はいつの間にか、内心でワクワクしながら、マディの言葉を待っていた。
そして。だけど。
「ん―……かわいい、タイプ、かな……」
その言葉を聞いた瞬間、ざっと、冷や水を浴びせかけられたような気がした。
なんだって?
今、マディはなんと言った?
かわいい、だと?
聞き間違いかと、一瞬我が耳を疑った。
間違いではないと証明するかのように、マディの言葉が、更に続けられていく。
「オレがいなきゃなぁんも出来ない、みたいな。そんなかわいいのがタイプかな」
妙に甘ったるい声だった。
一瞬、酒場中が静まり返る。が、すぐに戻った喧噪。
「ふ、ふわぁ、なんすかそれ! 随分具体的っすね! まさか既に相手がいたり? 流石は副団長!」
「流石って何だよ。まぁ、相手も……いないことは、ないけどな……あぁ、もうやめやめ! こら、答えただろ?! この話はこれで終わり!」
興奮したように歓声を上げる新人団員の声に、マディが満更でもなさそうに、照れたように何かを返している。
相手が、いる。
その言葉にも、俺はまたしても打ちのめされた。
マディがいなければ何も出来ない、かわいい、相手。
そう、マディの言葉を正しく認識した瞬間、周りの全ての音が遠ざかっていくかのような気がした。
かわいい、相手。そんなもの。
ああ、それは間違っても俺じゃない。
これはもう、認めざるを得ないのだろう。
俺はこの瞬間に、失恋したのだということを。
ある日の、何でもない、飲み会の席での、ことだった。
24
あなたにおすすめの小説
冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される
マンスーン
BL
王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。
泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
王様の恋
うりぼう
BL
「惚れ薬は手に入るか?」
突然王に言われた一言。
王は惚れ薬を使ってでも手に入れたい人間がいるらしい。
ずっと王を見つめてきた幼馴染の側近と王の話。
※エセ王国
※エセファンタジー
※惚れ薬
※異世界トリップ表現が少しあります
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由
スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの少年二人は、15歳になり神の祝福でスキルを得た事で道をたがえる。彼らはやがて青年となり、片方は魔王討伐に旅立つ勇者として華々しい活躍をし、もう片方はただ彼の帰還を待つ相変わらずスラム暮らしの存在となる。
これは何も持たない青年がただ勇者の帰りを待つ日常を描いた作品です。
無自覚両片想いの勇者×親友。
読了後、もう一度だけ読み直して頂けると何か見える世界が変わるかもしれません。
遊び人殿下に嫌われている僕は、幼馴染が羨ましい。
月湖
BL
「心配だから一緒に行く!」
幼馴染の侯爵子息アディニーが遊び人と噂のある大公殿下の家に呼ばれたと知った僕はそう言ったのだが、悪い噂のある一方でとても優秀で方々に伝手を持つ彼の方の下に侍れれば将来は安泰だとも言われている大公の屋敷に初めて行くのに、招待されていない者を連れて行くのは心象が悪いとド正論で断られてしまう。
「あのね、デュオニーソスは連れて行けないの」
何度目かの呼び出しの時、アディニーは僕にそう言った。
「殿下は、今はデュオニーソスに会いたくないって」
そんな・・・昔はあんなに優しかったのに・・・。
僕、殿下に嫌われちゃったの?
実は粘着系殿下×健気系貴族子息のファンタジーBLです。
氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された
楽矢
BL
目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。
何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。
記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。
----------
※注)
かっこいい攻はいません。
タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意!
貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。
ハッピーエンドです。
激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします!
全16話 完結済み/現在毎日更新予定
他サイトにも同作品を投稿しています。
様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。
初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです!
婚約破棄を提案したら優しかった婚約者に手篭めにされました
多崎リクト
BL
ケイは物心着く前からユキと婚約していたが、優しくて綺麗で人気者のユキと平凡な自分では釣り合わないのではないかとずっと考えていた。
ついに婚約破棄を申し出たところ、ユキに手篭めにされてしまう。
ケイはまだ、ユキがどれだけ自分に執着しているのか知らなかった。
攻め
ユキ(23)
会社員。綺麗で性格も良くて完璧だと崇められていた人。ファンクラブも存在するらしい。
受け
ケイ(18)
高校生。平凡でユキと自分は釣り合わないとずっと気にしていた。ユキのことが大好き。
pixiv、ムーンライトノベルズにも掲載中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる