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01・リシュ
しおりを挟む広大なこの世界唯一の大陸、グラスフォード大陸のだいたい南西に位置する、大陸中でも五指に入る巨大な王国、ティシクニ。
そんな国の第一王子として俺……――ミュリシュア・ティシクニ、通称リシュは誕生した。
今から28年前のことである。
俺は自分で言うのも何だが、眉目秀麗頭脳明晰、武に優れ、魔力にも長けた非の打ちどころもない存在だと自負している。
ちなみにこう告げて否定されたことはないので間違いないだろう。
そうあれるように努力も惜しまないしね。
実際に、
「自分でそう言うか……まぁ、間違ってはいないけど……」
と、呆れたように言われたりはするが、間違っていないのだからいいはずだ。
癖のないさらさらした、淡い金の髪と、透き通るような青い瞳は俺自身の持つ魔力の多さを物語り、事実この国で俺以上の魔力を持つ者など存在していないことだろう。勿論、他国は別だけど。
ただし、第一王子ではあるが、俺は次代の国王にはならない。
俺には俺よりは劣るものの、それなりに優秀な弟がいるので、奴に譲ったというわけだ。
当然それには理由があるのだけれど、それはおいおい話していくとして、とりあえずその理由の一つに、俺は国王としてではなく、せっかく維持している、この強大な魔力やら武力やらによって、直接国を守りたいというのがあった。
それというのもティシクニは、ほとんど最西に近い場所にあり、つまりそのまま、西の果てに近いということを意味する。
西の果てはいわば未開の地。
大陸中に点在する魔の森と同じ程度か、それ以上に魔素が濃く、他の国でも出没する魔獣や魔物のみならず、竜やそれに類似する大型の幻獣まで闊歩する、人は到底住めない場所だ。
もっとも、西湖と言われる巨大な湖を挟んではいるので、実際にそこまで大きな影響はないのだが、それでも時折そういった幻獣やら魔獣、魔物やらの襲来はあり、警戒は怠れない国だった。
そんなティシクニにおいて、一番の武力と言えば王立騎士団で、単純に武力のみがものをいう組織。
その王立騎士団で、かれこれもう、6年……否、7年になるだろうか。俺は団長を務めている。
これは当然のことだろう、なにせこの国に、俺以上に武に優れ、魔術を行使できる者は存在していないのだから。
俺はこの国もこの立場も誇りに思っているし、これからも力の及ぶ限り、国を守っていきたいと考えている。
もちろん、研鑽を怠るつもりはないし、王族に生まれ付いた以上、国民を守るのは義務だろう。
それを放棄したりもしない。
俺は自分の人生に、満足していた。……――ある程度は。
なにせ不満が全くないだなんてあり得ない。
それこそ、我が騎士団に残る悪しき習慣だとか、それを是正しきれない現状だとか、建国から続く騎士団なものだから、本部にしている居城も老朽化が進んでいて、所々改修の必要がありそうだとか、優秀ではあれど、いつまでもいまいち頼りない弟だとか、他にもいろいろと細々したこと。
そして何より……――マディのことだ。
否、マディとの関係、と言えばいいだろうか。
それが今の俺にとって、一番不満に思っていることだった。
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