3 / 11
02・マディ
しおりを挟むマディはレマディオ・フェリティラと言って、フェリティラ公爵家の次男に当たる。
おそらくは公爵家を継ぐだろう予定の人物であり、俺の幼なじみでもある。そして俺の副官と言ってもいい人物でもあった。
階級は王立騎士団の副団長。
俺ほどではないが、武力――……マディの場合は主に体術だろうか? ちなみに俺は剣術の方が得意なんだ。体術だけはマディに敵わないんだが、これは多分体格差もあるんだろう、とにかく武力や、魔術に優れている。
同じ年ではあれど、俺より数ヶ月だけ年上で、ふわふわのくせ毛をしていて、そして目がかわいい。
俺もまぁ、目は大きい方なんだけど、マディの目はくりっとしていて、ちょっと垂れ気味で、だからか、童顔に見える方なのではないかと思う。
それでいて男らしさや精悍さも併せ持っているなんていったいどうなっているというのか。
存在自体がずるいと言っていいだろう。
俺より少しだけ濃い、赤みを帯びた金髪と琥珀色の瞳はまるで宝石のよう。
全体的に柔和そうに見えるけど、仕草や口調なんかは案外と粗野だ。
腹立たしいことに、俺より5センチばかり背が高く、たったそれだけしか違わないはずなのに、体格差を意識せずにはいられないぐらいには、体の厚みがあって。
もっとも俺は? マディとは違って美しいので?
かわいい、だなんて印象は間違ってもないだろうが、女性的な美しさがあるだとかなんだとかは言われたことがある。
俺は男なんだが。
女性的な美しさって何だ、俺にも女性にも失礼ってものだろう、そんなことを言っていたやつは多分、認知が歪んでいたのだろう。それはともかく。
マディは垂れ気味の目がかわいいのだ。
ふわふわな髪も、まるで犬だとか猫だとかみたいで。
つけられているあだ名が狂犬であることも相俟って、間違いなく犬なのだろう。
正確には『狂戦士の狂犬』だ。
なお、『狂戦士』とは俺のことを指しているのだが、初めにそう言いだしたやつもやはり認知が歪んでいるとしか考えられない。
俺のように美しい『狂戦士』があるものか。
「何言ってんだよ、ぴったりじゃねぇか……自覚ねぇのかよ、お前……」
とか何とか、他でもないマディが言っていたけれど知ったこっちゃない。お前の目も節穴か。
「魔獣って見ると、暴走馬車みたいに突っ込んでいくだろ、いつも」
などとも呆れたように、疲れたようにぼやかれたけれど、マディこそ、俺が止めなければ止まれない『狂犬』の分際で何を言うのかという話だ。
そんな風に俺とマディは幼なじみらしく仲が良かった。
公爵家と王家。それぞれ同じ年。当然、そこまで近くはなくとも縁戚関係にはあるし……――確か、再従兄妹とか、その甥とか叔父とかだったはずだ。だから、当たり前のように物心つく前からほとんど兄弟のようにして育って、学校も一緒で、卒業した後の就職先まで一緒だった。
もっとも、身分も踏まえて元々その予定で育てられたという部分もあるだろう、つまりマディは幼い頃から、俺に仕えることを半ば決められていたという話だ。
それは何もおかしなことではないし、別に不満もない。
やはり、身分も踏まえて、例えば俺の側にいるのが嫌だと思うなら、離れていったって誰も咎められないことだろう。
マディはティシクニ公爵家の人間でありながら同時に隣国リゼナシアの王甥でもあるからだ。
母親がリゼナシアの現国王の王兄なので。
そして俺はそんな、幼い頃からずっと一緒にいるマディに――……恋をしているのだった。
子供の頃から、ずっと。
それは、マディ本人に、これまで告げたことのない恋心だった。
14
あなたにおすすめの小説
〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です
ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」
「では、契約結婚といたしましょう」
そうして今の夫と結婚したシドローネ。
夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。
彼には愛するひとがいる。
それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
執着
紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか
風
BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。
……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、
気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。
「僕は、あなたを守ると決めたのです」
いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。
けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――?
身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。
“王子”である俺は、彼に恋をした。
だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。
これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、
彼だけを見つめ続けた騎士の、
世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。
アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました
あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」
穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン
攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?
攻め:深海霧矢
受け:清水奏
前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。
ハピエンです。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
自己判断で消しますので、悪しからず。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる