【完結】囚われの塔の泣き虫姫(♂)

愛早さくら

文字の大きさ
7 / 55
第1章・泣き止まない我が妃へ(ルナス視点)

6・受理できない嘆願と、泣くばかりの彼について④

しおりを挟む

 ちなみに俺の口調が国王という立場にあるまじきほど悪いのも、宰相であるサネラが、幼なじみといえどどう考えても俺の扱いが粗雑なのも、全ては俺の両親に起因する。
 生まれは確かであるはずの彼ら・・は……――なお、俺の母も男性なので、彼ら・・であっている。ともかく、俺の両親は、冒険者として各地を放浪することを趣味としていた。
 と、言うよりそうして過ごしたかったのに、しぶしぶ国王と王妃という職を熟していたにすぎず、したがって結果的に私的な場では、到底王族どころか貴族にさえ見えない言動ばかり繰り返すような人たちだった。
 そんな両親に育てられた俺が、品良く育つはずがない。近しく育ったサネラも同じだ。
 まだ何とか俺に向かって敬語を使ってくる辺り、少しばかり意識は出来ていると言えるのだろう。
 気の置けない相手であることは確かなのだけれども。
 ともあれ、両親に期待をかけるのは無駄だと言われると頷かざるを得ず、だからと言って、着いたばかりの彼の元へと思うとどうしても素直には頷けず。だと言うのに、サネラは更に言葉を重ねてきた。

「あんた、あの第一公子殿下のこと、好きなんですよね?」
「お、おう、そりゃ……好きだけど。お前も見ただろ? あの美しさ……変わってない、いや、ますます神々しくなっていた……」
「そりゃ、確かにお綺麗ではありましたけどね」
「だろ?!」

 訊ねられ、陶然とあの子のことを思い出す俺に、サネラは肯定しながらもあきれ顔だ。

「ならいいじゃないですか。そんな麗しの第一公子殿下に触れるのは、貴方からすれば本懐でしょうが」
「いや、だからだなぁ、今日の今日だぞ?! 着いたばっかりなんだぞ?! 泣いてたんだぞ?! ちょっとは落ち着く時間って言うのも……」
「今日の今日だからでしょうが。今日行かなきゃ蔑ろにしてるって見られますよ。彼の受け入れに反対している奴らには軽んじられるし、彼が妃になることを賛成してる人達のことだって、安心させてやるべきでしょう。そういう人たちは僕と一緒で、あんたの後継者問題を憂いてますからね。むしろ貴方が彼の元を訪れないと知ったら不安に思うんじゃないですか? せっかく迎え入れたのに、彼でもダメだったのかって。あとは、前者の奴らに対しての言い訳もしやすくなるでしょ、どういう意味であれ、あんたがあの方に固執してるって見せるのは、決して悪いことじゃありませんよ」

 つまり、受け取り方次第、ということなのだろう。否、いずれにせよ今日の夜、彼の元を訪ねることそのものはした方がいいと繰り返し告げられ、俺はむすと不機嫌な顔を取り繕うことさえできなかった。

「でも、夜だぞ?! 夜に、好きな相手の元へ行くんだぞ?! そんなの、そんなことしたら俺は……」

 結局俺が躊躇するのは自信がないからだ。俺自身の、自制心に。そしてそれはサネラもわかっている。

「だから、それを込みでって言ってるんですよ。あと、さっきも言いましたけどね、これはあちらも望んでいることだそうですよ。彼の侍女曰くね」
「あちらもって……」

 昼間の泣き顔を思い出すと、到底そんな風には思えない。だが、彼の侍女がそう告げてきて、サネラも此処まで促してくる。
 何より俺自身、たとえ一目であっても彼を目にしたいという欲求を自覚してもいても。結局俺はそれ以上抗いきれず、その日の夜に、彼の元へ訪れることとなったのだった。

しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

処理中です...