そしてまた愛と成る

愛早さくら

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第1章

1-4・発端。つまり理由④

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 俺はそのまま賓客の為の応接室のような場所へと案内された。
 初めて見る後者な部屋は、以前は一度として目にすることのなかった場所で、そんな所からも、何もかもが以前とは違うのだと実感する。
 俺へとリモヌツ公爵家からとナウラティス王家からつけられた侍従と護衛は、案内された応接室で問題ないと判断したらしく何も言わず、また、俺用として用意し直されたらしい王妃の間も、すでに準備は整っているので、後程案内すると伝えてきたのは見覚えのある女官長だった。
 流石に彼女はまるで初対面かのように俺に接してきていて、内心抱いているだろう複雑な感情を見せない辺り、やはり動揺をあらわにした者たちとは違うようだと感心した。
 以前から彼女は非常に厳格な人物だったと記憶している。おそらくそこから良くも悪くも何も変わっていないのだろう。
 席を進められ、ルスフォルとは向かい合わせにソファへと腰かけた。
 ルスフォルに少しばかり躊躇う様子が見られるのは戸惑ってでもいるからなのだろうか。いったい何を戸惑うことがあるというのか。
 にこと品良く微笑みかけると、なぜか彼がびく、動揺したらしい様子が見て取れた。
 本当にいったい何なのだろうか。
 怪訝に思うが、敢えて顔には出さずにおく。
 そうすると何故かルスフォルの方が弱々しく眉根を下げてきて。

「どうかなさいましたか?」

 流石に見兼ねて声をかけざるを得なかった。

「あ、ああ、いや……君が。いえ、貴方が。あまりに似ているように見えて」

 ルスフォルは誰にとは言わなかった。
 だが、俺に分からないはずがない。
 そんなもの、あまりに明白だからだ。
 俺はくすと笑みをこぼして見せた。

「お言葉遣いはどうぞそのままで構いませんよ。これから私たちは夫婦となるのですから、無用な遠慮は不要です。それに私もその方の事情は存じ上げておりますから」

 すでに諸々把握済みなのだと言外に告げてみせる。
 もっとも、把握も何も、俺は当事者なのだけれども。あくまでもそれは言葉にはしない。表向きの立場や前提が非常に重要だということを、俺はすでに知っているからだった。
 俺の連れている護衛や侍従は傍に控えるばかりで、内心はどうあれ、どんな感情も表に出すことはない。よく教育されている者達ばかりなのだから当然だろう。

「ああ……申し訳ない。本来なら貴方は、何よりも尊重するべきなのだが……心遣い、痛み入る」

 何分自分は不慣れで。
 ルスフォルはそんな風に内心を顔に出している。それは為政者としてはあまりにお粗末だと言わざるを得ない様子に他ならなかった。
 ここ十年、彼を教え導いてきただろう周囲の苦労が偲ばれる。
 とは言えそんなこと、俺には関係のない話なのだ。
 否、逆にもっとしっかり把握するべきなのだろうか。そんなルスフォルをこれからは俺が支えていかなければならないのだから。

「陛下……差し出がましいことかもしれませんが、あまりそのように動揺をお見せになるべきではございませんよ。少なくとも、私以外の前ではお控えになられた方がよろしいでしょう」

 やんわりと一応と窘めておいた。
 だが、そんな俺に言葉にルスフォルは目を見開いて。

「君の前ではいいということだろうか」

 そんなことを言ってくる。
 俺はなんと返すべきか一瞬躊躇った。勿論、そんなこと周囲に悟らせるはずがない。やだ、やんわりと微笑んで。

「私とは夫婦になるのですから。陛下にも心安らかにいられる場所は必要なのだろうと心得ております」

 あくまでもルスフォルに対しての許容を示しておく。
 俺の言葉に、ルスフォルはあからさまにほっと安堵の息を吐いた。

「はは。いや、助かった。俺は本来、王らしく振舞うことにいまだどうにも慣れなくて」

 などと非常に砕けた口調で力なく笑う。
 俺の顔は崩れない。

「陛下の事情は聞き及んでおります。さぞご苦労なさったことでしょう」

 あくまでも寄り添う姿勢を示して見せると、ルスフォルがどんどん、俺に気を許していっているのが手に取るようにわかるようだった。
 胸が軋む。
 ルスフォルの、俺の知っている様子からのあまりの違いに眩暈がしそうだ。そうして俺は自覚せざるを得なかった。
 十年前に。結局俺は逃げたのだと、そう。
 ルスフォルが気の抜けたような笑みを俺に見せてきた。
 ああ、どうしてだろうかその笑顔だけが。なんだか妙に懐かしく。俺には見覚えのあるもので。
 そんな顔ばかりは変わらないのだなと、内心でこぼした呟きは、当然ながら、誰にも悟られるようなものではないのだった。
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