そしてまた愛と成る

愛早さくら

文字の大きさ
12 / 136
第1章

1-10・発端。つまり理由⑩

しおりを挟む

 躊躇いがちに入室してきたルスフォルは非常に気まずそうな顔をしていた。
 もうすでに簡素な夜着を身に纏っていて、おそらくは後は寝るだけなのだろう。……俺と同じだ。
 すぐ傍には寝台。
 否、ここは寝室で、それ以外などないに等しい。
 勿論、国王と王妃の寝室なのだ、充分な広さがあり、ソファなども申し訳程度設置されてはいるのだけれど。
 むしろ俺がいたのはそこで、ただ所在なく座っていることしか出来ていなかった。寝台にはとてもではないけれども腰掛けられなくて。

「あー、その、なんだ。なんと言えばいいのか……」

 ルスフォルの視線が泳いでいる。こちらを見たくないのだろうか。そう思うと、どうしてか胸が痛みを訴える。
 今更。今更なのに。
 俺はそうして感じた胸の痛みを、感じていないふりをするだけで精一杯だ。それ以外で、いったい何をすればいいのだろうか。
 おそらくはきっと、たった一晩。今晩だけ。今晩だけ、やり過ごせば、それで済むはずだった。
 だから極端な話、このまま朝まで。こうしていたって別に構いやしないのだ。
 寝なければいけないわけでもない。
 ここには俺とルスフォルの二人しかいなくて、おそらくは見えない場所に護衛はいるのだろうけれど、そんなものきっと気にしなくてもよくて。
 ルスフォルは明確に困ったように頭を掻いている。そうしてややあってから溜め息を吐いた。
 その溜め息には、いったいどんな意味があるというのだろう。びくり、思わず反応してしまう。顔には出さないようにと、気を付けていたはずなのに。震える肩までは、堪えきれなかった。
 そんな俺の反応に気付かないはずがなかったルスフォルが、弱り切った表情でこちらへと近づいてくる。

「すまない。そんなに緊張しないで欲しいんだが……今日だけでも共に過ごすようにと言われて。君もそうだろう?」

 俺は頷いた。ただ。

「すまない、と。謝罪なさるのはおやめになって下さい。いえ、私以外には、可能な限りなさいませんように。王であればこそ、容易に非を認めてはなりません」

 一応と苦言を呈しておく。細かいかもしれないが、こういった注意もおそらくは俺の仕事なのだろうから。
 俺に求められているのは、こういった意味も含めて、ルスフォルを支えることなのだ。

「あ、ああ。気を付けるようにする」

 閨にはきっと相応しくないだろう俺の苦言に、ルスフォルはひとまずとばかり、おそらくは反射的に頷いていた。
しおりを挟む
感想 78

あなたにおすすめの小説

若頭と小鳥

真木
BL
極悪人といわれる若頭、けれど義弟にだけは優しい。小さくて弱い義弟を構いたくて仕方ない義兄と、自信がなくて病弱な義弟の甘々な日々。

大嫌いなこの世界で

十時(如月皐)
BL
嫌いなもの。豪華な調度品、山のような美食、惜しげなく晒される媚態……そして、縋り甘えるしかできない弱さ。 豊かな国、ディーディアの王宮で働く凪は笑顔を見せることのない冷たい男だと言われていた。 昔は豊かな暮らしをしていて、傅かれる立場から傅く立場になったのが不満なのだろう、とか、 母親が王の寵妃となり、生まれた娘は王女として暮らしているのに、自分は使用人であるのが我慢ならないのだろうと人々は噂する。 そんな中、凪はひとつの事件に巻き込まれて……。

この手に抱くぬくもりは

R
BL
幼い頃から孤独を強いられてきたルシアン。 子どもたちの笑顔、温かな手、そして寄り添う背中―― 彼にとって、初めての居場所だった。 過去の痛みを抱えながらも、彼は幸せを願い、小さな一歩を踏み出していく。

奇跡に祝福を

善奈美
BL
 家族に爪弾きにされていた僕。高等部三学年に進級してすぐ、四神の一つ、西條家の後継者である彼が記憶喪失になった。運命であると僕は知っていたけど、ずっと避けていた。でも、記憶がなくなったことで僕は彼と過ごすことになった。でも、記憶が戻ったら終わり、そんな関係だった。 ※不定期更新になります。

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

転化オメガの優等生はアルファの頂点に組み敷かれる

さち喜
BL
優等生・聖利(ひじり)と校則破りの常習犯・來(らい)は、ともに優秀なアルファ。 ライバルとして競い合ってきたふたりは、高等部寮でルームメイトに。 來を意識してしまう聖利は、あるとき自分の身体に妙な変化を感じる。 すると、來が獣のように押し倒してきて……。 「その顔、煽ってんだろ? 俺を」 アルファからオメガに転化してしまった聖利と、過保護に執着する來の焦れ恋物語。 ※性描写がありますので、苦手な方はご注意ください。 ※2021年に他サイトで連載した作品です。ラストに番外編を加筆予定です。 ☆登場人物☆ 楠見野聖利(くすみのひじり) 高校一年、175センチ、黒髪の美少年アルファ。 中等部から学年トップの秀才。 來に好意があるが、叶わぬ気持ちだと諦めている。 ある日、バース性が転化しアルファからオメガになってしまう。 海瀬來(かいせらい) 高校一年、185センチ、端正な顔立ちのアルファ。 聖利のライバルで、身体能力は聖利より上。 海瀬グループの御曹司。さらに成績優秀なため、多少素行が悪くても教師も生徒も手出しできない。 聖利のオメガ転化を前にして自身を抑えきれず……。

ちゃんちゃら

三旨加泉
BL
軽い気持ちで普段仲の良い大地と関係を持ってしまった海斗。自分はβだと思っていたが、Ωだと発覚して…? 夫夫としてはゼロからのスタートとなった二人。すれ違いまくる中、二人が出した決断はー。 ビター色の強いオメガバースラブロマンス。

後天性オメガは未亡人アルファの光

おもちDX
BL
ベータのミルファは侯爵家の未亡人に婚姻を申し出、駄目元だったのに受けてもらえた。オメガの奥さんがやってくる!と期待していたのに、いざやってきたのはアルファの逞しい男性、ルシアーノだった!? 大きな秘密を抱えるルシアーノと惹かれ合い、すれ違う。ミルファの体にも変化が訪れ、二次性が変わってしまった。ままならない体を抱え、どうしてもルシアーノのことを忘れられないミルファは、消えた彼を追いかける――! 後天性オメガをテーマにしたじれもだオメガバース。独自の設定です。 アルファ×ベータ(後天性オメガ)

処理中です...