そしてまた愛と成る

愛早さくら

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第1章

1-25・以来。しかし未だ⑪

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 そもそも義父はリセデオの現国王の従兄弟だか再従兄弟はとこだかで、縁戚関係にある。
 それは公爵家である以上、何も不自然なことではない。王族の親類、兄弟姉妹などで、爵位を下賜された結果が公爵家となるからだ。
 歳も近く、非常に近しく育った間柄らしい。
 幼い頃には義父こそが国王の伴侶にという話も出たほどの近しさで、しかし義父は母を知ってしまった。
 運命だったのだとかなんだとか、非常に痛痒くなるような言葉で義父はとてもたくさん母との出会いを話してくれたのだが、それらはあまりに抽象的で、所々に義父自身の感激した様子ばかり挟まるせいで、具体的にどういう状況だったのかだとかはよくわからなかった。
 とりあえず義父が母へと大変に心を寄せていて、それはもう物凄く母を好んでいるのだということだけはよくわかっている。
 なにせ存在するかどうかもわからない、自分の子供の可能性がある存在を探そうとするほどなのだから相当だろう。だからこそ俺が見つかったのは奇跡・・なのだそうだ。
 核が他でもない自分。それだけでなにものにも勝る喜び。だとかなんだとか言われてもよくわからない。それ以外の要素が多すぎる気がするのだが、義父がいいのならいいのだろう。
 ただし、伯父曰く、

『えー、でも君を構成している魔力のほとんどは君の母親の実兄のものだよ。僕達姉弟の中に一人、君の母親に傾倒してるのがいてね。君を取り上げたのも多分、その兄弟だし。その後で一番多い魔力はうーん、多分甥っ子かなぁ……だから君ってほとんどナウラティスの王族のみで構成されてるんだよねぇ……』

 とのこと。実兄? 甥っ子? 正直悍ましいと思ってしまったが、実母はつまりそういう性質を持った存在であるらしい。
 血縁だとかなんだとかは実母の前では意味を成さないのだそうだ。親だろうが子供だろうが兄弟だろうが甥っ子だろうが関係ないが、しかし無理強いなどはしたことがないとのこと。考えたくない話だった。
 そんな実母に心酔している義父……どう思えばいいのかさえ分からなかった。
 とりあえず実母には会いたくないことだけは確かだ。俺とほとんど同じ顔をしているらしいが実感は全くない。実感など得ないままでいいとも思うがそれはともかく、それでも核は義父の魔力なのだそうだ。
 しかし当然、実母のことを、リセデオ国王は快く思っておらず、俺の存在そのものも歓迎しているわけではないらしい。
 義父が俺を養子に迎えるに当たって、反対した国王を義父は泣き落としで頷かせたのだと聞いた。
 と、いうか、

『僕ね、ティーシャくんが僕の跡継ぎだよ!ってグトくんに言ったんだ。でも、グトくんってば、駄目だって言うんだよ? 僕、悲しくなっちゃって……だってティーシャくんは僕の子供なんだ、なのに……悲しくて悲しくていっぱい泣いてたら、もういいよ、認めるよって言ってくれたんだぁ! でも貸し・・だって言われちゃった……』

 と、やはり泣きながら話してくれたので、本当に泣き落としたのだと思う。
 なお、グトくんというのはおそらく国王の愛称なのだと思われる。確かリセデオの現国王の名前はグニトリスだとかなんだとかいうらしいと習ったからだ。
 くだんの国王が義父に非常に弱いことの表れだろう。本当に泣き落としで頷かせられるだなんて。
 貸し・・とやらが唯一の譲歩だったのかもしれない。
 義父など、何があってもなくてもずっと泣いているのだから泣きたいだけ泣かせておけばいいんだよ、というのは伯父の発言で、伯父は宣言通り、義父がどれだけ目の前で泣き続けていてもそれに対してはほとんど反応しない。どれだけ心臓が強いのだと慄いたものだが、義父は義父で脅すつもりだとかいうわけではなく、自分でも制御できずに泣いてしまっているだけなので、別にそれでも構わないのだそうだ。むしろ反応しない伯父の前で泣くのは気分的には楽なのだとか。
 むしろ義父は自分が泣くことに反応して欲しくないようにも見えた。
 そして国王曰くの貸し・・を返す手段の一つとして提示されたのが、俺のニアディスレへの輿入れだった。
 俺が公爵家を継ぐ条件の一つだと言ってもいい。
 義父はそれら全部を俺に隠すことなく教えてくれながら、でもでもだって嫌だ嫌だと泣いていた。

『グトくんがねぇ、王家には手頃・・なのがいないし、向こうの条件も多分ティーシャくんを指してる・・・・だろうからティーシャくんにしろって……僕ね、嫌だって言ったんだけどね、貸し・・があるだろって言うんだ、お前がどれだけ泣いてもこの貸し・・は返してもらうからなって。ごめんよ、ティーシャくん、だからね、僕は君にお願いしなくちゃいけなくて……でもでも、やっぱり嫌だよぉ……!』

 いつも通り、泣くばかりの義父に頷いたのは俺だった。
 と、言うか、泣いてもダメだと言われているのだから、受けるしかないだろうと、そう判断したためだ。
 ちなみにこんな風なのに国王はそれなりの頻度で義父を王宮に呼び出している。何か用事がある時もあれば、お茶を一緒にするだけの時もあるのだとか。国王にとって義父はいったい何なのだろうかと思わずにはいられないのだが、多分詮索してもいいことはないのだろうということもわかっている。
 なんにせよ国王の覚えがめでたいことは、公爵家にとって決して悪いことではないことだけは確かだった。
 また、俺はニアディスレに嫁いでいても、公爵家を継ぐことは出来るらしい。実質の領地経営は義父が存命の間は義父が、その次は俺が産む子供が担う予定なのだとか。
 その為にもいったん、俺自身が、名称だけであっても爵位を継承しておいた方がいいのだそうだ。
 それはニアディスレ王室側も了承していて、それもあり俺は最低一人・・は子供を産まなければならないのである。
 その後、何代かの間にはリセデオ王室との婚姻も視野に入っているとまで言われて、いったいどれだけ未来の予定を立てているのかと呆れた。
 だが、政略結婚というのはそういうものなのかもしれない。
 俺にだって別に特に否やはない。
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