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第1章
1-37・過日。されど君は⑧(ルスフォル視点)
しおりを挟む俺はこの10年。諾々と周囲に流され続けてきたわけではない。
それは確かに初めこそ、戸惑いや混乱もあり、抵抗するという発想さえなかった。
逃げたこともあれば、癇癪を起したこともあるし、すぐ傍にいる者に当たり散らしたことさえある。
加えてストライキよろしく部屋に閉じこもりもしたし、用意された書類を無茶苦茶にしたことだってあった。
そのどれもこれもが意味を成さず、ただ空しいだけ。
自分でも自分のことを、どうかしていると思う。
大人げないことばかり。だがそもそも俺自身に大人だという認識そのものがなく。
当たり散らすだとか言う、相手のいることになると、申し訳なさが先立ち、結局当たりきることも出来ず。それは書類を無茶苦茶にしたり、癇癪を起した時も同じ。
逃げ出そうとしてもすぐに見つかり、監視が着くことになったし、部屋に閉じこもっても、引きずり出されるだけだった。
俺の反応からだろう、どうやら周囲の者たちは、俺があまり他者に迷惑をかけたりだとかすることを好まないと知ったらしく、時折脅しのようなことさえ口に出してくるようになった。
これを俺がしなければ民が飢える。
そんな風に言われて、どうして従わずにいられただろうか。
そういったいろいろなことが、適切であるかどうかの判断は彼女の仕事だった。
俺は脅しに容易く屈してしまう所があり、それらを管理するのは彼女や周囲の仕事で。そうして10年。
結局、俺は何も変わらないまま。記憶を取り戻すこともなく。
そうしている間に少し前、事故で彼女を失くし、彼女の代わりが必要だという話となり、そうして迎え入れたのが彼。
かつて一度だけ会った少年と、非常によく似た青年だった。
だけど違う。否、違うはずだ。
少年は茶色い髪と、深い青の瞳をしていて、反して彼は銀髪に水色の瞳だ。
銀とは言っても、少し黄みを帯びてはいるのだけれど、間違っても茶色ではない。
そして年も合わず名前も違う。
彼女が教えてくれた少年の名前はティスチア。他国の商家出身の、平民だということだった。
なのにどうしてだろうか。
同じ顔、同じ呼び名。
まさか彼は少年本人なのだろうか。
否、あり得ない。そんなはずはない。
だけど、そんなこと関係なく、少年へと伸びる自分の手を俺は止められず。
俺はだんだんとわからなくなっていく。俺が今触れているのは彼なのだろうか、少年なのだろうか。
『ルーシー』
あの時。
少年が俺のことなのだろう、呼んだ声が耳から離れない。
「陛下……っ、ぁっ……」
ああ、そういえば声も同じだな。そんな、新しいことに気付きながら俺は、今夜も彼の体へと溺れていくばかりなのだった。
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