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第1章
1-46・未明。だから次へ④
しおりを挟む俺が何より優先的にしたかったこと。それは懐かない猫のようなかわいいあの子との関係の再構築である。
俺はあの子に負い目がある。
たとえどんな事情があったとしても、10年前、まだ幼かったあの子の元を去ったのは俺自身。それはつまり俺は一度あの子を捨てたということだ。
俺に向かって、必死に伸ばされた幼い手をまだよく覚えている。
愛しい子。俺の。
それに後ろ髪引かれながらも、俺は結局あの子の元を去った。そして10年。
今更懐いて欲しいだなんて、虫が良すぎる話だろう。
それでも他でもない俺自身が、あの子と関わらずにはいられないだけの話。
もっとも、年齢的に反抗期だというのも正しいらしいのだけれども。
思えば俺が家を飛び出したのも、あの子と同じ年の頃である。
ルスフォルも同じように、国を出た年齢はそう大きくは違わないと聞いている。
確か14か15かぐらいだったのだとか。
それを思うと、俺やルスフォルへの態度はともかく、つけられている家庭教師たちによる授業などを真面目に受け、乳母に過度な心配もかけずこの王宮にとどまり続けている辺り、むしろいい子過ぎるのではないかと心配になるほどだった。その分の態度の悪さだと思えばかわいいものとさえ言えることだろう。あれは言うならば一種の甘えなのだから。
「お前……また来たのかよ」
俺が王太子の前に姿を表すと、彼は決まって悪態を吐いた。
ぎゅっと眉根を寄せ、見るからに鬱陶しいという顔をして見せる。その上、ツンとそっぽを向くだらしのない姿勢。
可愛くない口調と態度。だけど俺には全身で甘えてきているようにしか見えなかった。
きっと無意識に俺を試しているのだ。
聞けば亡くなった前王妃にはここまでの態度はとらなかったということだから、むしろ甘えてくれている分だけ良しとするべきなのかもしれない。
遠慮が少ないのだろうことに間違いはないはずなので。
俺は内心の感情を押し込めた上、うっすらと微笑んで、ひとまず気になったことを指摘しておく。
「その口調は頂けませんよ、殿下。人に向けて『お前』などと言ってはいけません。また、目上の者に対峙する時は最低限、姿勢を正さなければ」
全くただの小言にしかならないのだが、仕方がない。
乳母はこう言った時には敢えて口を出さないようにしているようだった。
これは10年前と同じである。
彼女は俺が側にいる時には、敢えてあの子のことを叱ったりなどしないのだ。それは多分、今から思うと俺に、そういった立場を譲ってくれているからだったのだろう。きちんと職務に忠実に、自分の立場を弁えた女性なのだ。……少々愛想がなさすぎる気はするが、これぐらいでいいのかもしれない。そしてそれは今も同じ。
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