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第1章
1-53・未明。だから次へ⑪
しおりを挟む「正直な所を申しますと、貴方がナウラティスの王族だとわかっているのも大きい。納得した部分もあります。そんな貴方が例えばこの国を失くした方がいいと判断したのなら、それはきっと間違いではないのでしょう」
こちらの言い分に関してはわかる気がした。ナウラティスの王族。それはつまり、国の特色的に、悪意や害意を持たない性質をしている証明のようなものだ。
実際に俺はナウラティスになど足を踏み入れたことはないのだが、あの国から弾かれることなどないだろうということは伯父が保証している。理由は伯父に近づけるかららしい。伯父個人にもナウラティスの国全体にかかっている結界と同じものが施されていて、俺はそれを超えて伯父に近づけているのだとか。だからこそ国にも弾かれはしないだろうとのこと。ちなみに義父は入れないらしい。
『ティーシャくんやリオルくんと違って、僕、それほど清廉じゃないからね』
とは義父の言。肩を竦めて告げていた。
それはともかく、だから、ナウラティスの王族だから、というのが理由だとすれば、納得しきれないというものではなくなるのは確かだった。だが。
「それは表向きの理由に過ぎないのでは?」
それが本質とは、どうしても思えなかった。
今とは違う、10年前の冷たい眼差し。だが、よくよく様子をうかがってみると、それは本当は今と大きく違ってはいないのかもしれない。
10年前から。この宰相の瞳は、どこか凪いでいたのだ。少なくとも、俺と対峙する時は。
「……王妃殿下は本当に聡明だ。我々は貴方を知っている。10年前から、貴方を見ていたのですよ。今、対峙していて実感しています。貴方は何も変わっていらっしゃらない。殿下。人の本質とは早々に変わるものではございませんね」
言葉はどこか柔らかかった。
どうしてこんなことを言うのだろう。
それはつまり結局は、俺への信頼ということになるのではないだろうか。
よくわからなかった。きっとこれ以上考えても、俺が納得できる答えなど得られることはない。それだけを理解する。
だから、ひとまずは、彼を此処へと呼びだした、本題だけでも済ませてしまうことにした。
「……貴方は私を妨げられないとおっしゃる。ならば例えば、この王宮の中を、私が思うがままに変えてしまっても構わないと?」
俺が指しているのは、見た目やそういったことではない。いわばもっと根本的な、この王宮の体制そのものなどのことだ。
そしてそれは目の前の宰相にも、違えず伝わっているようだった。
宰相はそこで始めてにこりと微笑む。初めて目にする、男の笑みだった。
「お好きになさいませ。貴方はすでにそれだけの力を手に入れている。その力をご自由にお使いになれば宜しいのです。我々は誰も貴方に逆らわないと誓いましょう」
その言葉は。あまりにも重すぎる、権限の譲渡に他ならなかった。
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