そしてまた愛と成る

愛早さくら

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第1章

1-56・未明。だから次へ⑭

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 それは彼らにとっては絶望というに相応しい衝撃だったのだろう。

「仕方のないことだ。あれは突発的な事故のようなもの。前世の記憶を思い出す、それは誰にでも起こり得て、防げるようなものではありません。わかっているんです。ですが憤りを覚えたのも事実。陛下はお変わりになりません。良くも悪くもこの10年、何も変わっては下さいませんでした。王としては未熟なまま。戸惑い続けていらっしゃる。我々の中に、王族に教育を施せるような者も、そもそもそんな余裕をもつことさえできず、出来たのは王としての在り方を説くことだけでした。せめて記憶を失くされる前の陛下に戻って下されば。そういう思いもあった。……亡き、エティア王妃はよく陛下を支えては下さっておりましたが……あの方はなにぶん、侯爵のご息女でいらっしゃいますから。今にして思えば、少しばかり偏ってもいたのでしょう」

 ルスフォルを王としては未熟だと、宰相がそう称することが気になった。確かに、今のルスフォルでは俺から見ても、少しばかり気になる所が多々ありはするのだけれど。
 同時に、もし自分がここにとどまっていれば。そうも思ってしまう。
 いかに彼から拒絶されたとしても。他でもない俺自身が彼と向き合って、そうしたらいつか彼を支えることが出来たかもしれない。そうしたらもしかしたら今よりも。少なくともルスフォルが疲弊するだけでも和らげられた可能性がある。それより先は当時の俺にはどうにもならなかっただろう部分なので、出来たことは少ないのだろうけれども。
 俺は魔法魔術が苦手ではない。治癒魔術の類もある程度なら行使できる。そればかりは10年前も同じ。
 もし俺がここにいれば、だからこそ、もしかしたら王妃も。助けることが出来たかもしれない。
 そうも思った。
 そんな風に色々と考えを巡らせてしまうと、俺は目の前で項垂れる宰相を一方的に責める気にもなれなくて。
 何よりもこの人は疲れている。
 休息が必要なのはこの人も同じだ。
 そんな風に少し前に対峙したばかりの宰相の様子を思い出していた俺に、侍女は少しばかり呆れたように溜め息を吐いた。

「ティーシャ様……情け深いのは結構ですが、それではあまりにお優しすぎます。あの者が疲弊していたとして、ティーシャ様ほどではございませんわ。今のティーシャ様にこそ休息が必要ですのに……私共の独断で申し訳ございませんが、すでにアーディ様には事情をお伝えして、詳しい者を手配して頂いております。私達だけでは限界がございますから。その者が到着してからでも遅くはございませんわ。それまでは私達の方でも可能な限りの変化は促してまいりましょう。ですからティーシャ様はあまり気負わずに」

 侍女の言葉は思いやりに満ちていた。
 俺自身疲弊している。それも間違いなかった。
 特に体調の悪さはいかんともしがたい。
 常に体は重怠く、腹には違和感が付きまとった。治癒魔術が追いつかないほどなのだからそろそろきっと限界も近い。もっとも元々治癒魔術では疲労まではなかなか改善できないのだが。
 それの打開策など、休む以外にありはしないのである。
 幸いにしてと言えばいいのか、ルスフォルの方に変化が見られた。そちらに期待するしかないのかもしれない。……俺は実はこの変化をこそ、歓迎していないのだけれども。
 それでいてあの手を拒めない。否、拒みたくないと、こだわっているのは俺の方。だから疲れているのは言ってしまえば俺の自業自得である。
 なのに、それがわかっているのだろう侍女たちは俺を責めない。やんわりと窘められはするがその程度。俺の希望を尊重してくれている。有難い限りだった。
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