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第1章
*1-70・転変。および希求⑫
しおりを挟むルスフォルは律儀だ、そう思う。
「ティーシャ。今日も、その……」
毎夜、すっかり寝支度も整えた後に、夫婦の寝室へと訪れるルスフォルは、いつまでたっても慣れた様子を見せなかった。
毎晩毎晩ぎこちなく、躊躇いがちで。
俺に欲情しているのは確かだ。触れたいと思ってくれているのも。
でも、強引に迫るような積極性を持たない。
そんなルスフォルを見る度に、俺は胸が軋んで仕方なかった。違う。そう思う。
「陛下」
だから俺は毎晩わざわざ、やんわりと微笑んで、こちらから手を差し伸べる。
「どうぞ」
そうして促せばルスフォルは、まるで花の蜜に誘われる蝶のよう、俺へと手を伸ばし返し、そうして一度でも触れると強引に俺をかき抱いた。
「ぁっ!」
とさ、寝台の上に押し倒され、
「ティーシャ、ティーシャ、ああ、」
何度も名前を呼ばれながら、荒々しい手つきで体を弄られる。
どうせすぐ脱ぐことを想定して、ゆるく身に着けていた夜着は瞬く間に剥ぎ取られ、俺は何も身に纏わない裸体をルスフォルの前に晒した。
足を広げられ、その間に、未だ衣服を寛げないルスフォルの、布越しでもはっきりとわかるほど熱く逞しく昂った彼自身を押し当てられる。
もうすっかり慣れた熱。否、以前から変わらない熱。
ルスフォルはもぞもぞと自身の衣服を乱し、
「ティーシャ、すまない、俺はもう……大丈夫だろうか? 構わないか?」
余裕なく俺に触れながらも、近頃はそんな風に可能な限り注意深く俺の様子をうかがおうとしてくるようになっていた。
俺の下肢を探り、解そうとする。慎ましやかな窄まり。毎晩長時間ルスフォルを受け入れ続けているにもかかわらず、俺自身が治癒魔術で治してしまう所為か、毎晩未経験かのような頑なさを取り戻してしまっているそこ。
ちっとも緩むことはなく強張って、一応ルスフォルがこの部屋へとと訪れる前に、自分で少しばかり触ってはいるのだけれど、辛うじて香油を仕込むのが精々で、いぜ、こうしてルスフォルに触れられてしまうと、どうしてか俺の体は、まるでルスフォルの指を拒絶するかのような反応を返してしまうばかりだった。
綻ぶとも解れるとも程遠い。硬いばかりの俺の体に、だけどルスフォルの興奮が収まることはなく、一応今のよう、指程度であれば、仕込んだ香油の助けもあって、傷つくなどということはないのだけれど、俺よりずっと太いルスフォルの指を押し込められると、ほんの微かな痛みと大きな違和感を伴った。
「ぁっ、ぅっ……」
ぐちゅぐちゅと腹の中を触られるのは、正直な所、不快だ。
他でもないルスフォルの指なのに、どうしてこんなにも嫌だと思うのか。俺は自分で自分がわからない。
なぜだかどうしても気持ち悪くて。でも、自分がこの指を、気持ち悪いと思うことそのものにどこか安堵している。
歪んでいる、そう思った。
眉根を寄せ、小さく呻く俺をルスフォルが注意深く窺っているのがわかる。
見ないで欲しい。
告げる代わりに引き寄せた。
「あっ!」
ぐりっ、強く内側を抉られてひときわ大きな声が上がる。気持ちよさから上がった声じゃないことぐらい、自分でもわかっている。
否、今のルスフォルに俺はきっと、蕩けた声なんて聴かせた声がない。いつも苦痛に呻くか、そうでなくとも反射的に上がるそればかり。
だからというわけでもないのだろうけれど、ルスフォルは萎えたりなどせず、硬く昂ったまま熱をぐっと俺に押し付けてきて。
俺はルスフォルが俺を求めている、その事実だけでどこか満足していた。
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