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第1章
1-104・告白。さきへ君と⑫(ルスフォル視点)
しおりを挟む何をどう考えればいいのかわからない。
ティーシャを、俺が傷つけていた。
自覚がなかった、覚えていない。そんなもの言い訳にもならないだろう。
あの美しい存在を踏みにじったのは俺なのだ!
「は、はは……はは」
笑い出したくなる。あまりに滑稽で。
ティーシャが俺に好意を抱いていない? 俺との時間を取ろうとしない。そんなもの当然だろう。ティーシャからすると俺はきっと裏切り者だ。
ティーシャの心を裏切った。
記憶を失い、彼を否定するというカタチで!
なのにそれも知らず、俺はいったいティーシャに何をしたのか。ティーシャを今までどう扱ってきた?
いくらティーシャの方から導かれたからと言って、再会してからの俺の行状が褒められたものではないことは間違いない。
なのに今更ティーシャを求めているだなんて。これが滑稽でなくてなんと。
俺は心底、後悔している。何故、記憶などなくしたのだろう。どうしてティーシャを忘れたんだ。
当然、説明は受けた。俺が記憶を失くしたのは事故のようなもの。この世界においては誰の元へ突然に起こっても何もおかしくはなく、俺の所為ではないのだと。誰が悪いわけではないことなのだと。
だが、だからと言って、その後の行動にまで責任がないわけではない。
いくらわからなかったからと言って、俺が一番初めにティーシャを否定した、それは間違いようのない事実で。
わけがわからなかった。
謝ればいいのか。ティーシャに、どう償えば。俺が、ティーシャを傷つけたのだ。
だが同時に、謝罪も償いも、いずれもティーシャは求めていないのだろう、そうも思う。だって今更いくらそんなことをしたって、この10年は決してなくならないのだ。
ここを離れ、心を壊したティーシャの10年は、もう二度と帰ってこない。
ティーシャの心についた傷を、なかったことになどきっと出来ない。否、それをどうにか繕ってきたのは俺ではなく。
ラーヴィ様は注意深く俺を見ていた。
そして。
「ショックを受けてるところ申し訳ないんだけどね、本題はこの先なんだ。君に伝えておきたいのは、それを踏まえた上での、これからの話」
そんなことを更に続けて告げてくる。
それを踏まえて、まだ他に、など。いったいこれ以上何があるというのか。
心が何も追い付かず、呆然とラーヴィ様を眺めるだけの俺を、ラーヴィ様の真摯な眼差しが貫いた。
「ティーシャは君を受け入れていない。今のままだとあの子は壊れる。それを君に伝えておかなければならないと、僕達は判断した」
聞かされたのは、もっと更にどうすればいいのかわからないようなことだった。
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