そしてまた愛と成る

愛早さくら

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第1章

1-131・間近。それに向て⑩

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 部屋に入って、すでにソファへと座っていた背中にぎくりとする。
 話を、しなければ。思っていたはずなのに抵抗感が拭えない。
 どうして。
 わからなかった。
 でも、話さなければいけない。それだけは確かで。
 そうでなければ前に進めないのだ。
 ルスフォルと共に生きられない。
 もう、婚姻式も済ませた。
 俺はこの王宮に骨を埋める。ルスフォルの隣で生きていく。一緒に。
 覚悟して嫁いできた。
 忙しさにかまけて、後回しになったことはあったと思う。
 俺自身自覚していない感情もあった。
 でも自分で選んだ。ルスフォルと生きたいと、俺が望んだのだ。たとえ今のルスフォルが、かつて俺の愛したルスフォルとは違うのだとしても。それでも傍にいたい。願ったのは俺だった。
 なら、話さなければ。これから先のために。
 わかっている。わかっているのに、どうして。
 知らず唾を飲みこんでいた。
 怖い。
 何が怖いのかもわからない。でも怖い。いや、本当はわかっている。そうだ、怖いのだ。
 ルスフォルと話すことが怖い。
 ルスフォルが何を言うのかが怖い。
 この婚姻は政略的なものだ。
 そこにルスフォルの意思はない。
 でもルスフォルは歩み寄ろうとしてくれていた。
 わかっている。
 わかっていて、見ないようにしていた。
 ルスフォルがそうしようとするのを拒んでいたのは俺。
 体をつなげることで誤魔化し続けた。
 ルスフォルの真心を踏みにじり続けてきた。
 わかっている。自覚している。
 だから怖いのだ。
 そんな俺を、ルスフォルがどう思っているのかがわからなくて怖い。
 ルスフォルに、嫌われてしまったのでは。嫌だと思われたのでは。疎まし、がられているのでは。
 そんなことを考える。
 そうされても仕方がない行動を取っている自覚があるからこそ。
 それでも。
 ぎこちない動きで、応接スペースに近づいていく。
 勿論、ルスフォルの隣ではなく、対面へと。
 話し合うのならきっとそっちだから。

「申し訳ございません、陛下。お待たせしてしまいましたね」

 引きつりそうになる頬を必死に笑みの形に引きずり上げて、震えそうになる声を堪え、努めていつも通りの声音を心掛ける。
 王妃らしく。
 自分の立場に相応しいような振る舞いで。
 10年前には決してできなかった仕草、表情、口調。立場を得るに相応しい言動。
 義父に身につけさせてもらったそれ。
 ここ数年で随分と自分に馴染んできたと思っていたのだけれど、それが今はどうにも苦しくて堪らなかった。

「ああ、いや。俺も今来たところなんだ」

 俺に気付いたルスフォルが穏やかに、だけど緊張を孕んだ声音で答える。
 ああ、そういえば今のルスフォルも自分のことをというのだな。
 どうしてだろう。そんな今更なことを俺は思っていた。
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