133 / 136
第1章
1-131・間近。それに向て⑩
しおりを挟む部屋に入って、すでにソファへと座っていた背中にぎくりとする。
話を、しなければ。思っていたはずなのに抵抗感が拭えない。
どうして。
わからなかった。
でも、話さなければいけない。それだけは確かで。
そうでなければ前に進めないのだ。
ルスフォルと共に生きられない。
もう、婚姻式も済ませた。
俺はこの王宮に骨を埋める。ルスフォルの隣で生きていく。一緒に。
覚悟して嫁いできた。
忙しさにかまけて、後回しになったことはあったと思う。
俺自身自覚していない感情もあった。
でも自分で選んだ。ルスフォルと生きたいと、俺が望んだのだ。たとえ今のルスフォルが、かつて俺の愛したルスフォルとは違うのだとしても。それでも傍にいたい。願ったのは俺だった。
なら、話さなければ。これから先のために。
わかっている。わかっているのに、どうして。
知らず唾を飲みこんでいた。
怖い。
何が怖いのかもわからない。でも怖い。いや、本当はわかっている。そうだ、怖いのだ。
ルスフォルと話すことが怖い。
ルスフォルが何を言うのかが怖い。
この婚姻は政略的なものだ。
そこにルスフォルの意思はない。
でもルスフォルは歩み寄ろうとしてくれていた。
わかっている。
わかっていて、見ないようにしていた。
ルスフォルがそうしようとするのを拒んでいたのは俺。
体をつなげることで誤魔化し続けた。
ルスフォルの真心を踏みにじり続けてきた。
わかっている。自覚している。
だから怖いのだ。
そんな俺を、ルスフォルがどう思っているのかがわからなくて怖い。
ルスフォルに、嫌われてしまったのでは。嫌だと思われたのでは。疎まし、がられているのでは。
そんなことを考える。
そうされても仕方がない行動を取っている自覚があるからこそ。
それでも。
ぎこちない動きで、応接スペースに近づいていく。
勿論、ルスフォルの隣ではなく、対面へと。
話し合うのならきっとそっちだから。
「申し訳ございません、陛下。お待たせしてしまいましたね」
引きつりそうになる頬を必死に笑みの形に引きずり上げて、震えそうになる声を堪え、努めていつも通りの声音を心掛ける。
王妃らしく。
自分の立場に相応しいような振る舞いで。
10年前には決してできなかった仕草、表情、口調。立場を得るに相応しい言動。
義父に身につけさせてもらったそれ。
ここ数年で随分と自分に馴染んできたと思っていたのだけれど、それが今はどうにも苦しくて堪らなかった。
「ああ、いや。俺も今来たところなんだ」
俺に気付いたルスフォルが穏やかに、だけど緊張を孕んだ声音で答える。
ああ、そういえば今のルスフォルも自分のことを俺というのだな。
どうしてだろう。そんな今更なことを俺は思っていた。
5
あなたにおすすめの小説
大嫌いなこの世界で
十時(如月皐)
BL
嫌いなもの。豪華な調度品、山のような美食、惜しげなく晒される媚態……そして、縋り甘えるしかできない弱さ。
豊かな国、ディーディアの王宮で働く凪は笑顔を見せることのない冷たい男だと言われていた。
昔は豊かな暮らしをしていて、傅かれる立場から傅く立場になったのが不満なのだろう、とか、
母親が王の寵妃となり、生まれた娘は王女として暮らしているのに、自分は使用人であるのが我慢ならないのだろうと人々は噂する。
そんな中、凪はひとつの事件に巻き込まれて……。
この手に抱くぬくもりは
R
BL
幼い頃から孤独を強いられてきたルシアン。
子どもたちの笑顔、温かな手、そして寄り添う背中――
彼にとって、初めての居場所だった。
過去の痛みを抱えながらも、彼は幸せを願い、小さな一歩を踏み出していく。
転化オメガの優等生はアルファの頂点に組み敷かれる
さち喜
BL
優等生・聖利(ひじり)と校則破りの常習犯・來(らい)は、ともに優秀なアルファ。
ライバルとして競い合ってきたふたりは、高等部寮でルームメイトに。
來を意識してしまう聖利は、あるとき自分の身体に妙な変化を感じる。
すると、來が獣のように押し倒してきて……。
「その顔、煽ってんだろ? 俺を」
アルファからオメガに転化してしまった聖利と、過保護に執着する來の焦れ恋物語。
※性描写がありますので、苦手な方はご注意ください。
※2021年に他サイトで連載した作品です。ラストに番外編を加筆予定です。
☆登場人物☆
楠見野聖利(くすみのひじり)
高校一年、175センチ、黒髪の美少年アルファ。
中等部から学年トップの秀才。
來に好意があるが、叶わぬ気持ちだと諦めている。
ある日、バース性が転化しアルファからオメガになってしまう。
海瀬來(かいせらい)
高校一年、185センチ、端正な顔立ちのアルファ。
聖利のライバルで、身体能力は聖利より上。
海瀬グループの御曹司。さらに成績優秀なため、多少素行が悪くても教師も生徒も手出しできない。
聖利のオメガ転化を前にして自身を抑えきれず……。
奇跡に祝福を
善奈美
BL
家族に爪弾きにされていた僕。高等部三学年に進級してすぐ、四神の一つ、西條家の後継者である彼が記憶喪失になった。運命であると僕は知っていたけど、ずっと避けていた。でも、記憶がなくなったことで僕は彼と過ごすことになった。でも、記憶が戻ったら終わり、そんな関係だった。
※不定期更新になります。
拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件
碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。
状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。
「これ…俺、なのか?」
何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。
《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》
────────────
~お知らせ~
※第3話を少し修正しました。
※第5話を少し修正しました。
※第6話を少し修正しました。
※第11話を少し修正しました。
※第19話を少し修正しました。
※第22話を少し修正しました。
※第24話を少し修正しました。
※第25話を少し修正しました。
※第26話を少し修正しました。
※第31話を少し修正しました。
※第32話を少し修正しました。
────────────
※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!!
※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。
ちゃんちゃら
三旨加泉
BL
軽い気持ちで普段仲の良い大地と関係を持ってしまった海斗。自分はβだと思っていたが、Ωだと発覚して…?
夫夫としてはゼロからのスタートとなった二人。すれ違いまくる中、二人が出した決断はー。
ビター色の強いオメガバースラブロマンス。
後天性オメガは未亡人アルファの光
おもちDX
BL
ベータのミルファは侯爵家の未亡人に婚姻を申し出、駄目元だったのに受けてもらえた。オメガの奥さんがやってくる!と期待していたのに、いざやってきたのはアルファの逞しい男性、ルシアーノだった!?
大きな秘密を抱えるルシアーノと惹かれ合い、すれ違う。ミルファの体にも変化が訪れ、二次性が変わってしまった。ままならない体を抱え、どうしてもルシアーノのことを忘れられないミルファは、消えた彼を追いかける――!
後天性オメガをテーマにしたじれもだオメガバース。独自の設定です。
アルファ×ベータ(後天性オメガ)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる