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6・だからと言って変われない
しおりを挟むそれから、キューミオ殿下は何を思われたのか、それとも単純にお立場からお考えになられたのか、ルーミス殿下と多くの時間を過ごされるようになっていった。
決してルーミス殿下の方から近づいていっているわけでも、共にいて楽しそうになさっておられるわけでもないが、キューミオ殿下ご自身が、折に触れルーミス殿下に近づいていかれるのである。
話が盛り上がっている様子もなければ、ルーミス殿下が無表情で無口であることに変わりはない。
だが、キューミオ殿下はそう言ったことを、何も気にしておられないようだった。
おそらくはルーミス殿下はそういう方なのだと、判断されたということなのだろう。
そしてそうなると、自然、私との関りも多くなってしまう。
私も、仮にも婚約者として過不足ない時間を、ルーミス殿下と共に過ごしているからだった。
そしてキューミオ殿下はそんな私が気に入らないのか何なのか、
「なんだ、またお前付きまとっているのか。いくら婚約者だからって言っても、お前みたいな能面が常に近くにいたら息が詰まるじゃないか。ちったぁ気を使えないのか? ったく。可愛げもなけりゃ気遣いも出来ないとは」
などと呆れかえったようなお声をかけてくることしばしばで、そういった時にはルーミス殿下は、言葉もなくさっさと遠ざかっていくことが多かった。
「あ、おい、ちょっ……待てよ!」
などと、そうしたら、キューミオ殿下が、私が追いかける前に追いかけていかれ、私が置いて行かれる結果となった。
欠片も振り返ったりなさらないルーミス殿下がいったい何を思っておられたのか、何故遠ざかって行かれるのかなどは全くわからず、私はただ、キューミオ殿下曰くの能面のような、あくまでもいつも通りの微笑みを湛えた顔でポツリ、立ち尽くすのみ。
「ああ、ラーファ様……! なんてお痛ましいっ……!」
「本当に。相変わらず無礼な方」
「気になさることはございませんわ。淑女として感情を表情に表さないなど、当然のことなのですから」
「キューミオ殿下こそが貴公子らしくないだけですもの」
そんな風に周囲にいた方々に慰められることまでもがいつも通りの光景で。
私はただ、常よりも笑みを深め、
「ありがとうございます」
そう静かにお礼を口にするばかりだった。
ただ、それでもどうしても、考えるようにはなってしまう。
『可愛げがない』
『能面のよう』
『気遣いが出来ない』
などと、幾度となくキューミオ殿下から掛けられるお言葉を。
かと言ってまさかルーミス殿下が言っておられるのならともかく、キューミオ殿下の言う通りに変わることなんて出来なくて。
(だって今まで受けてきた教育を、覆すようなことばかりなのですもの)
次期王太子妃として、そのようなことが出来るわけがなかったのだ。
そうして、ルーミス殿下とも少しばかり過ごす時間を減らしながら、日々はゆっくりと過ぎていった。
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