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22・視線の先に
しおりを挟むなぜ、こんなにも動揺を素直に表せられるのだろう。
何より今、この場でそのような顔をするなど、状況判断が上手く出来ていないということを示しているに他ならない。
それは私やルーミス殿下の感覚からすると、到底あり得ないことだった。
前々からわかっていたことだけれども。キューミオ殿下は本当に王族らしくない。
こんな状態で、キューミオ殿下を王太子に頂いている隣国は大丈夫なのだろうかと、思わず心配になってしまうほどだった。
いつの間に逃げ出したのか、つい先ほどまでキューミオ殿下の影に隠れるようにして怯えていた、いつもの女生徒の姿はもう見えなかった。
キューミオ殿下が可愛らしいと言って、側近くに侍らせていた女生徒。
キューミオ殿下の再三告げてきていた『可愛げ』とは、こういった時には逃げて行ってしまうようなものなのかとつい、滑稽に思ってしまう。
思って、すぐにあまり良くない思考だと自分を戒めたけれど。
「な、ななな、何、を言っているん、だ、こ、抗議、だと? これまでも? 今後の付き合いを考える? そ、そんなもの、こちらこそがっ……!」
狼狽えながら呟いて、ようやくようやく自分を取り戻せたのか、そこで震えながら声を荒げる。
ルーミス殿下はそんなキューミオ殿下の様子に、呆れたように溜め息を吐いて、
「話にならないな」
吐き捨てたかと思うと、ついと視線を巡らせ始めた。
何かを探してでもいるのだろうか?
気になって視線の先を追うと、ルーミス殿下がつと目を止めたところにいたのは隣国……つまりキューミオ殿下の故国の外交官。
壮年の男性で、非常に厳しい顔つきをして、睨み据えるようにしてキューミオ殿下を見つめていた。
ただ、すぐにルーミス殿下が自分を見ていることに気付いたのだろう、深く、どこか吐かれたような息を吐いて、こちらへと歩み寄ってくる。
軽く伏せられた視線には何処か、苛立ちすらも見て取れた。
それらにいったいどんな意味があるのか。私達のわからないはずがない。
まさかキューミオ殿下のように、私やルーミス殿下に向けて、そのような顔をしているわけではないだろう。
何度か顔を合わせたことのあるその外交官は、キューミオ殿下と違って、ごくごく当たり前の感覚を持った人物だと記憶していた。
まさかここでキューミオ殿下を擁護するとも思えないぐらいには。
何より、先程まで彼が睨み付けていたのはキューミオ殿下だったのである。
そして、案の定、近くへと歩み寄ってきた彼は、
「キューミオ殿下」
そう、自国の王太子へと、いやに静かに声をかけたのだった。
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