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23・怯えと拒絶、だけど

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 キューミオ殿下は、ビクンと肩を震わせる。
 顔を見る見るうちに青ざめさせているようなのは、今更、自分の現状が、あまりいいものではないと認識し始めたからなのだろうか。
 この外交官と、顔見知りである可能性も高かった。
 なにせ外交官とキューミオ殿下は同じ国の人間なのである。
 外交官と言えば王宮、つまり国に属している官吏となる。
 必然的に貴族籍を持っている者である可能性は非常に高く、特にキューミオ殿下が我が国へ留学中というのもあって、ある程度キューミオ殿下にも物申せるような人物が、外交官として寄越されているのは少し考えればわかることだった。
 と、言うよりは、むしろここでまったく立場の強くないものが抜擢されることなど逆にあまり考えられない。
 少なくとも我が国に当てはめて考えてみれば。
 それは、今のキューミオ殿下の様子を見る限り、隣国も同じだったのだろう。
 キューミオ殿下の立場は王太子。
 その立場を背負って、友好国であるとはいえ、他国へと留学する。
 そういった場合、キューミオ殿下ご自身が、余程有能だったり優秀だったり、あるいは自国で揺るぎない権力だとかを持っているのでもない限りは、お目付け役のようなものがつけられることは充分に考えられることで、そして私が見ている限り、キューミオ殿下はそのような、強いお立場におられるようには見えなくて。
 案の定と言えば良いのか、外交官である彼は、先程見せた厳しい顔はどこへやら、にこと、とても大変すばらしい笑顔を、キューミオ殿下に向けられているのだけれど、キューミオ殿下の顔色が良くなるようなことは一切ない。
 それどころか、むしろ怯えたような様子さえ見せていた。
 正直意外に思いながら、私はただ彼ら二人を見守るばかり。
 ルーミス殿下もまた、何も言わず、彼らを厳しく見つめている。

「少し私にお時間を頂けませんか。可能ならば場所を移したく……詳しいお話はそちらで致しましょう。大変申し訳ございませんが、ルーミス殿下。場所とお時間を少々お借りしても?」

 キューミオ殿下に向けては、むしろ否やなど聞かないといった様子でそう告げ、続けて外交官はルーミス殿下に向き直って、礼儀正しく頭を下げた。
 移動は私も賛成だ。
 この場は、卒業記念を兼ねた夜会の場。
 これ以上場を乱すのは望ましくない。
 ルーミス殿下も同じお考えでいらっしゃったのだろう、鷹揚に頷かれていた。

「ありがとうございます。ご報告は後程、必ず。さぁ、キューミオ殿下」

 外交官は感謝を述べたのち、再びキューミオ殿下へと向き直って静かに促す。
 キューミオ殿下は僅かに後退りながら、ふる、首を力なく横に振った。

「い、ぃぃ、ぃ、い、ぃやだっ……」

 拒絶の声を呟かれるのに、ルーミス殿下が片眉を上げ、今度は警備にと会場内に控えていた兵士たちに目配せする。
 さっと出てきた者たちが、キューミオ殿下を取り囲み、

「大変お騒がせ致しました。代わりにもなりませんが、私から謝罪を……」

 くるり、会場内を見渡してそう頭を下げた外交官が、しばらくのち頭を上げながら促すまま、半ば無理やり、キューミオ殿下を会場外へと導いていく。
 周囲の者たちは何も言えず、ただ、そうして退場したキューミオ殿下を、見送るより他になかった。
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