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1・きっかけと要因
1-7・6年前から今にかけての、
しおりを挟む予想外のことが起こったのはその後だ。
ミスティはいつもと同じようにティアリィに魔力を注いだ。否、浮き立つ気持ちのまま、いつも以上に執拗に。ティアリィを放せなかった時間と同じだけ、彼に魔力を注ぎ続け、それは5年前の、初めてティアリィとそういう関係を持った時以上の熱量だった。
だが。
「ティアリィ?」
気付いたのは行為が終わってすぐのことだった。
ティアリィはミスティを拒んだことがない。いつも受け入れて。そう出来なかったのは、5年近く前のあの時だけ。
それ以外でティアリィがミスティの魔力を、受け入れて抱え込まなかったことなど本当に一度としてなかったのだ。なのに今は、ティアリィの腹にミスティの魔力は凝っていなかった。
いつかのように、馴染まなかったり、注げていないわけではない。だが、其処に残っていないのだ。
ティアリィは初め、直後ということもあり蕩けきっていて、現状がすぐに把握できずにいるようだった。だが、ミスティが促したからかすぐに気付いて、彼自身でもひどい戸惑いを見せた。
何故か、本当に分からないという風にミスティを縋るように見つめてくる。
こんな弱さも。言うならば今までは見られなかったもので、ミスティは頼られていることを逆に嬉しくさえ思った。だからまぁいいかと思い直す。
ティアリィはミスティを拒んだわけではない。ただ、子供を望まない他の誰かと同じように、注がれた魔力を散らしてしまっているだけ。ミスティを、受け入れていないわけではなかった。
だから、今は子供を望まないと、ただそれだけの話なのだろうと。
ミスティは、まさかティアリィがそれを気に病んでいるだなんて思ってもみなかったのだ。むしろ何も気づかず浮かれてさえいた。
何せティアリィが今、ミスティに、恋心を抱いていることは確かだったのだから。
ティアリィがミスティを求めている。その事実だけでミスティにはもう、充分だったのだ。
そう思いながらもいつまで経っても慣れず、求めていながら誘うよう、逃げ続けるティアリィに応じるように追いかけ、捕まえては体をつなげる度、つい、それまで以上の執拗さで魔力を注ぎ込んでしまってはいたのだが、子供自体も、出来ればいいけれど別にどちらでもいいとも考えていた。
全てはティアリィしだい。
油断していた。だからこそミスティは6年後に。ティアリィに逃げられたのである。国外にまで。
ある意味ではそれもまた、ミスティの。侵したミスのようなものだった。
勿論、同じよう、ティアリィ自身も戸惑うばかりだった。
何分ティアリィには自覚がない。おそらく、深層心理だとかそういったティアリィ自身の認識の外にあるものが働いていたのだろう。
ティアリィは別に子供を望んでいなかったわけではなく、しかし逆に望んでもいるわけでもなかった。別にどちらでもよかった、と言えばいいだろうか。それ以前に、それまでは大切に腹に凝らせ続けられていたティアリィの魔力を、どうしてか抱えられなくなっていたのは事実だった。魔力をとどめられなければ、子供など望むべくもない。
ミスティの魔力は確かに受け止められるのに。ティアリィにしっかりと馴染みはするのに。
おそらく。ティアリィが意図して子供をと望めば。否、そこまでではなくとも、魔力をとどめておきたいと願えば。それだけで済むような話だったことだろう。
だが、自身の気持ちを自覚したティアリィはそれが出来なかった。
なにせ何年経とうとも初めて自覚した自らの恋心に振り回されて、ミスティとまともに向き合えなくなっている部分があるままだったぐらいだ。
ミスティが少しでもそういった意図を持ってティアリィに触れると、それだけでも恥ずかしくて仕方なくて、逃げたしたくなるほどだというのに、意図してミスティの魔力を自分の中に留めるだなんて。そんなこと出来るはずがなかった。
情けない話なのだが、そんなことを想像するだけで、なんだか転げまわりたい気持ちになってしまうのだ。落ち着けるわけもなければ魔力操作もおぼつかなく、直後に引き取ることとなった、産まれて一年以内でまだまだ親からの魔力供給が必要なコルティに魔力を注ぐのでさえ、どうにかこうにか一緒に行うのが精いっぱいで。
アーディやミーナにそうしたように、ミスティに注がれた魔力を体内に溜め変換し、自身の魔力と練り合わせ、自らの胸から吸わせるということもできなかった。
そうして与えられたのはティアリィ自身の魔力だけ。ミスティはミスティで調整して同時に直接コルティに魔力を流し込まなければならない事態に陥っていた。
ティアリィはそれがひどく申し訳なく情けなく居た堪れなくてたまらず、余計にミスティの魔力を、意図的に留められないという悪循環。
つまりティアリィが6年後に。ああいう逃げ方をした理由が、そんなところにもあったという話である。
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