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2・旅程と提案
2-3・マシェレアの首都
しおりを挟むマシェレア共和国は、その国名が示す通り共和制の国だ。今からおよそ200年前に当時の王族を廃し、それ以降、今の形態を維持している。近くにポータルが設置されていたのが示す通り、冒険者ギルドが大きな力を持っていて、国家元首も冒険者ギルドからの指名により選出される。
その上で防犯上の理由も含め、敢えて冒険者ギルドからは遠い所に代表邸を設置し、行政や外交は主にそちらで行われていた。
主に能力値を考慮されての選出で、今の所、大きな問題が起こったことはないという。
周辺諸国との関係も良好で、首都にポータルを置ける程度には外に向けて開けた国でもあった。
ポータルはその特性上、国外からの侵入をしやすくする所がある。余程結界や防御に自信がなければ、国内の主要部分に設置できるようなものではなかった。
逆を言えばそうすることにより、国外に向けて国力を示す指標にもなり得る。ナウラティスで言えばポータルの周辺は防壁魔法に覆われていて、なおかつ、国全体を覆う守護結界はポータルや他の魔術を使用した転移にも適用された。なので王都だけでも数か所のポータルが設置されている。国土が広大なのもあって、国内の主要か所全てにポータルがあったが他国では国内で一か所あればいい方だった。
マシェレアにもギルド本部の傍の一カ所しかなく、代表に会う為には首都内をほとんど端から端まで移動する必要があった。
マシェレアの首都は、ナウラティスの王都とは違い、何処か雑然とした雰囲気が漂っている。治安が悪そうだというわけでは決してないのだけれど、人々の活力が伝わってくるような賑やかさがそこにはあった。
ナウラティスの王都だって、静かな街だというわけでもないのだけれど。それでも国が違えば流行りの建築様式なども少しは異なってくるし、そこに暮らす人々もとなると言わずもがな。窓の外に流れる景色はどこか物珍しく、ピオラも興味深そうに眺めている。
「降りたい?」
しかし訊ねるとピオラは首を横に振った。
「いいえ、そこまででは。今後また機会もございましょう。今は要りません」
優等生的な模範解答だが、ティアリィが見る限り、自分を偽っているだとか我慢しているだとかいう様子はなく、今は本当にそこまでではないのだろう。
「そう」
だからティアリィは頷くにとどめた。
ところで、ティアリィの同行は本当にミスティ以外には周知されていて、当然、マシェレアにもキゾワリ、ファルエスタにも伝え済みだ。ティールという護衛としてだというのも同時に。
ただ、いくら護衛としてだと言っても、本来の立場も一緒に伝えられている以上、本当に護衛として扱われるわけではないだろうことはティアリィとしても想定していた。
案の定、辿り着いた代表邸で迎えてくれた代表が一番に挨拶を求めたのはティアリィだ。一行の代表はピオラであったにもかかわらず。
「ようこそいらっしゃいました。ナウラティス帝国皇后陛下」
ティアリィは苦笑して、差し出された手に握手を返しながら、一応、釘は指しておく。
「代表。私は今、いち護衛官です。その敬意はどうぞピオラ様に」
そういってすぐ傍に控えていたピオラを指し示す。
「わかっておりますとも。しかし貴方様の輝きは、そのような変装では少しも隠せない」
代表は鷹揚に頷いて、続けてピオラには手を取り、甲に触れない程度のくちづけを捧げた。
「ピオニラティ王女殿下もご機嫌麗しく」
「代表も。ご健勝そうで何よりです」
ピオラは何かを気にした様子もなく、微笑んで返す。代表はもう一度頷いて先を促した。
「この度は本当に。こちらにお立ち寄りくださってとても光栄です。本日は簡単ではございますが、宴席を用意しております。部屋も整えてございますので、それまでどうぞごゆるりとお寛ぎください」
「お言葉に甘えます」
今度はしっかりと、ピオラに向けて案内し始めたので、ティアリィは一歩後ろに下がり、後に続いた。
そうしていながら共にいる護衛の一人に目配せする。相手は心得たように小さく頷いた。
先に、周囲に何か危険などないのかを確認をしてくるようにと言葉にはせず指示を出したのだ。
すぐに共に出迎えに出てくれていたこの代表邸の職員に話しかけ、この場から離れたのを視線の端で認め、ティアリィ自身は意識を、前方の二人から離さないよう心掛ける。
ピオラは王女に相応しい様子で代表との歓談に興じていた。
漏れ聞こえてくる話の内容にも、特に問題となりそうなものはなく、ピオラも立派になったものだとどこか感慨深く思う。こう言った時は、子供の成長は本当に早いと実感した。
その後、用意されていた宴席までの間に、今後の予定や護衛についてなどをマシェレア側とも確認し合い、その日は促されるまま一泊し、代表邸を出たのは翌日の朝だった。
ティアリィは夜のうちに一度ナウラティスに戻り、コルティを宥めた。勿論、ミスティとは鉢合わせしないように気を付けている。昼の出来事を報告してくれたアーディとグローディは、にやにやとひどく楽しそうにしていた。ミーナは呆れたような眼差しを寄越すばかり。それぞれとの時間をある程度堪能して、改めてマシェレアに転移したティアリィを、今度はピオラが迎え入れる。
「寂しい?」
姉弟と離れて。昨日まではずっと一緒だったのだ。訊ねるとピオラは首を横に振った。
「いいえ。お母様がいますもの」
「今はティールだよ」
変装は解かないままだ。髪の色も目の色もいつもとは違う。
「そうでしたわね」
ピオラは笑った。
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