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2・旅程と提案
2-4・ピオラの寂しさと、
しおりを挟むマシェレア側からの申し出で増員した数人の護衛と侍女を加え、山岳地帯と魔の森を迂回し、その上で可能な限り大きな街道を進んでいく。
何分、馬車での旅だ。一日で進める距離などたかが知れていて、首都を出てすぐ、次の街で早々に、次の夜を過ごすことになった。
都市の位置によっては野宿せざるを得ない日も予定されているので、ある程度の宿に泊まれるだけその日は恵まれている。
町で一番の宿の一室で、ピオラと向かい合わせに座り一息吐いたティアリィは、思えばこれほど長く、ピオラとだけ過ごしたのはピオラを引き取った、本当に最初の最初の数日以来だと思い返していた。
あの頃のピオラはまだまだティアリィに慣れ切ってくれておらず、今のように穏やかな笑みなど見たことがなかった。
まだたった四つだった、痩せこけて生気に乏しかった少女。今ではその時のことなど見る影もない。
今のピオラを見て、ナウラティスの第一王女であることを疑う者などきっと存在しないだろう。濃い灰色の髪にやはり濃い紫色の瞳。色味こそ王家の特色を宿してはいるのだが、魔力もさほど多くはなく、平民にしては多くとも、貴族の中に入るとむしろ少ない程度。にもかかわらず、その薄い血からは考えられないほどに馴染んでくれている。
ティアリィなりに愛情をかけて育ててきたつもりだが、礼儀作法や座学など勉強という面では特にティアリィにはわからない苦労もしてきているはずだ。何せピオラは真面目でおとなしく、勤勉で努力家だから。
だからだろうか。本当は国を出たかったのだろうか。場所は、何処でもよかった、とか?
それはティアリィが、この縁談をピオラが受けると主張した時から、少し、気にかかっていたことだった。
ピオラがティアリィ達を疎んじているだとかは流石に考えてもいない。だが、第一王女という立場にかかる重圧は、もしやピオラには重すぎたのではないかとは思った。
今まで自身の立場にプレッシャーなど感じたことのないティアリィにはその辺りの感覚はほとんどわからないので余計に気にかかる。
確かに、流石に皇太子妃、皇后となることに何の重圧も感じなかったとまで言えば嘘にはなるのだが、それでも問題として認識するほどではなかったのだ。
それは公爵家の嫡子として生まれ、生まれつき国内でも随一の魔力と王族に匹敵する立場に甘んじて育ってきたが故の弊害だった。感覚がどうしても他とはずれてしまう。それはティアリィ自身でも自覚していることではあった。
だが、今、目の前に座るピオラにそのような影などは少しも見えない。ティアリィが気にしすぎているのだろうか。むしろ、今のピオラは初めて見るほど満ちて、楽しそうですらあった。否、それこそが国を出れた喜びなのか。
「嬉しそうだね」
思わずと言った風に漏れたティアリィの言葉に、ピオラは一瞬きょとんと眼を瞬いて、次いでふんわりと微笑んだ。
「ええ、とっても。だってこれから長く、お母様と二人きりでしょう? 初めてですもの。旅行も。楽しみにもなりますわぁ」
続けて告げてくれたのは、そんな嬉しいセリフ。ティアリィは面映ゆくなり、頬が熱を持ったのを自覚した。
確かに、先程自分でも同じようなことを思ったばかりだ。やはりいろいろと、ティアリィは考え過ぎていたらしい。
「私は自分の立場をしっかりと心得ております。ですので、あまり考えないようにはしていましたけれど、それでも例えばコルティなどがずっとお母様にべったりくっついているのを見ると、どうしても羨ましく思う時もありましたのよ? ですけれども、これからしばらくはわたくしが独占できるのですもの。楽しみにもなるというものですわ」
ピオラの顔に、憂いなどはなかった。だが。
ピオラは年齢も一番上で、その上引き取った時にはすでにアーディを身ごもっていたのだ。一人きりで甘えさせてやれた時間はひどく少ない。
一番下のコルティとでは比べるべくもなかったことだろう。
しんなりと眉尻の下がったティアリィに、ピオラは慌てて言い募った。
「ああ、どうぞお気になさらないで。仕方のないことですわ。お母様もお父様もお一人ずつしかおられませんもの。それに対してわたくしたちは五人。加えてお二人はお忙しくていらっしゃったでしょう? それを思うと、十二分に心をかけて頂いていたと、わたくしもわかっておりますのよ」
それでも、寂しさを感じることはあったのだろう。
過ぎたことだ。今更言っても仕方がない。ティアリィも気を取り直して小さく微笑む。
ピオラが言うように、これからはしばらくの間、ピオラを一番に気にかけていられるのだから。もうじき14歳。とは言え、まだまだ子供と言える年齢でしかない。ならば今からでも、取り戻せるものが少しはあるはず。
「なら、余計に今を楽しまないとね」
「ええ、本当に」
こんなに長い旅など、ピオラもティアリィも初めてなのだから。微笑みあった夜はすぐに更けていった。
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