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2・旅程と提案
2-5・寂しさと手紙
しおりを挟むピオラは本人が告げた通り、旅の間中、終始楽しそうにしていた。
思えばまだ13歳。もうじき14になるとは言え、まだまだ子供だ。普段からもう少し甘えさせてやれればよかったのだけれどと、ティアリィの胸に後悔がよぎった。
ピオラでそうなのだ。なら、他の子たちはと、はっと思い至って戻った時に訊いてみると、アーディとミーナには呆れた顔をされ、グローディには苦笑を返された。コルティはそれどころではなく、元々甘えたな所がある子なので、会えた時は常にティアリィにべったりだった。この様子では近々、大丈夫そうな場所の時にでも連れ出し、思い切り甘やかしてやらねばなるまいと予定を立てる。詳しい日程はアーディと相談しようとも。ミスティの目を誤魔化す必要があるので、そちらを請け負ってくれているアーディとの打ち合わせは必須なのだ。
なお、呆れた顔だった理由を問うと、今更だと切って捨てられた。加えて、自分たちはそんな風に思ったことがないとも付け加えられたが。二人とも自立心が旺盛だからなのだろう。
アーディは過ぎるほどしっかりしていて、だからかむしろ親からの干渉を煩わしいとさえ思っていそうな雰囲気があった。ミーナは頻繁に王宮を抜け出していて、まずは捉まえること自体が難しい。
自分の自由になる時間目一杯を使って、城下に入り浸っているような子供が、親の手など求めているはずもない。むしろあれは多分数年のうちに国を出る。今はまだ言い出していないけれど、それも時間の問題なのだろうと思われた。なるほど、今更と言えば今更だ。聞く相手を間違えている。二人とも、
「母様と二人きり? ないない。むしろ要らない」
だそうで、逆にティアリィの方が寂しくなってしまったのだが、案外そんなものなのだろう。
グローディはそもそも引き取った年齢が年齢で、5年近く経った今も、少しばかりの遠慮が残っている。馴染んでくれてはいるとは思うのだけれど。それ以上を求めるほどでもないのだろう。
ピオラだけが寂しい思いをしていた。元々の気性もきっとある。幼少期に育った環境から受けた影響もまた、少なくはない。
いずれにせよ今更だ。ティアリィに出来るのは、今を大切にすることだけだった。
割り切ってさえしまえば、旅はより楽しいものになる。
ピオラもティアリィも、このような長期間の移動など初めてで、これまでは他国へ行く用事があっても、ポータルを使用しての短期間のものがほとんどだった。
あとは一度目的地にさえついてしまえば、転移魔法で戻るのはすぐなので、元より時間をかける必要性が少なかったというのもある。現に今も、毎日時間を見計らっては王宮に帰っている。
アーディ曰く、まだミスティは気付いていないらしい。本当に存外抜けている。
ミスティと言えば、アーディから、進捗がある度、紐解いた手紙の報告を受けるのだが、それがまた居た堪れなかった。
アーディからの指示で手紙につづったのはいわゆるすべて愛の言葉だ。つまり、ラブレターのようなものである。
それら全てをミスティが舐めるように読んでいただなんて話を聞くと、それだけで転げまわりたいような気分に陥った。
あれらの手紙に、嘘など何一つ書いてはいない。だからこそ恥ずかしい。
遅くならないうちにと手紙の補充も指示されているが、しばらくはそんなもの書けそうもなかった。
ミスティへの想いだなんてそんなもの。今の心情なら、寂しいとでも書けと言うのか。恥ずかしすぎて無理だ。
ティアリィはそのうちに、紙を見るだけでミスティを思い出すようになってしまった。書かなければと思いすぎるあまりにか、何を書こうかと考え始めてしまう。必然、自分の気持ちを見つめ直すことにもなり。
たった数週間離れただけで、すでにミスティが恋しい。こんな調子で先方に着いて、長期間のピオラの護衛など、務まるのだろうかと心配にさえなる。
なのにそんなティアリィを見ても、ピオラもアーディも皆、笑うだけ。情けないことに親の威厳などどこにもなかった。
そうこうしている間に旅程は半分近くを過ぎ、マシェレアを抜け、キゾワリ聖国に差し掛かろうとしていた。
ナウラティスとは宗教観からして全てが違う国である。この旅程で、一番警戒が必要な国でもあった。
「ご不安ですか?」
国境を前に、ピオラが静かに訪ねてくる。ティアリィは苦笑を返した。
「そりゃね。うちとは国交もほとんどないし」
今回の旅程はティアリィの事情も含めて伝えてはいるけれど、それでどういった反応が返ってくるのかが全く読めない。何もなければいいという希望が、あくまで希望でしかないことなんてティアリィにもわかっている。わかってはいても、それでも、無事に通過できることだけを、ティアリィは願わずにはいられないのだった。
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