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2・旅程と提案
2-16・油断が招いた予定外
しおりを挟むさて、ファルエスタにさえ入ってしまえば、キゾワリで危惧した懸念などなくなった。
たとえ同行する宰相にどんな心持ちがあろうとも、だ。今、他の目も多いこんな状況で何かを仕掛けてくるとも思えない。読心を使ってもよかったのだが、ティアリィは人の思考を垣間見ることなど、元々そんなに好きではなく、出来るだけしたくなかったのもあり、今は急を要しているわけでもないしそこまではしなくとも大丈夫だと判断した。
だが一応、こちらの防御結界に抵触しない者たちへは薄く同じ防御魔法を纏わせておく。特にピオラには念入りに。
で、ファルエスタに入ったからには、送り届けないといけない子供が一人。
「ミーナ」
日の高いうちに宰相が言っていた村に辿り着き、其処でいくつかの打ち合わせをした後、まだ早くはあるけれど、今晩はここで過ごすことに決まったので、それまでは皆、自由時間となった。
少し迷って、今日は早めに戻ることにする。夕方、早々に夕食を済ませた後、ピオラと、合流した背格好の似た者たち……――その中にいた少女二人と仲良さそうに話をしていたミーナに呼びかけると、彼女はティアリィを見て、これから言われることに思い至ったらしく、ひどく不満だというような顔を見せた。
「え~、もうちょっといいじゃない」
「元々ファルエスタまでっていう約束だろ?」
それはミーナを同行させるに当たって初めに取り決めた決め事の一つだった。
国境を超えるまで。ファルエスタに入ったら戻ること。
そもそもミスティの目もあるのだ。そう長々と一緒に行動させたままでなどいられない。
「はぁい。もう、母様ってば融通が利かないんだからぁ」
不承不承頷いて近づいてくるので、ティアリィは溜め息を吐き、こちらを見てくる少女たちに、控えめに笑いかけた。
「ごめんね、話してる途中みたいだったのに」
「いいえ。他愛無いおしゃべりでしたもの。構いませんわ」
おっとりと彼女たちの代表のように首を横に振ったのは、ピオラで、ミーナはピオラすらも恨みがましい目で見ている。
「ミーナ」
疲れたようにため息交じりに名を呼んで窘め。
「じゃあ、ちょっと帰ってくるから」
「ええ、こちらのことはお任せください。いってらっしゃい」
言い置いて、返事が返ってくるのを確かめると同時、ミーナに手を伸ばし、転移魔法を行使した。
一瞬後、音もなく二人はナウラティスの王宮にいる。
いつも通りの転移で、ミーナからは深いため息。
「はぁ~~~もう終わりかぁ。残念~」
口を尖らせるのに苦笑して、旅装のままなミーナを着替えてくるように促し、コルティやアーディを探そうと、彼らの気配がする方へと足を向けた。
すぐに見つかった二人と共に、せがまれるまま、コルティを抱き上げてアーディの私室へと向かう。
今日は少し伝えることがあったので其処になった。
別に珍しいことではない。打ち合わせはよくアーディの部屋でしているし、他はコルティの部屋や、稀にティアリィの執務室ということもある。
ミスティがいる気配を避けて、馬車はその時々によって変化した。
多分、この時、ティアリィは少し油断していた。
ようやく張り詰め続けていた気が抜けて、とりあえず目立った危機が去ったせいで周囲に注意を向けることを怠ってしまった。
アーディの部屋で、現状を伝えた。それは合流した商団のことだったり、その中の二人の少女、とりわけピオラと同じ年のミデュイラという名のフデュク商会、商会長の孫娘はピオラと共に学園にも通ってくれるとのことで、今日判明したばかりのその話と、結界に阻まれた宰相の話だったりした。
そして存分にコルティを甘やかす。
会う時間が少ないせいで、コルティは本当にべったりとティアリィに引っ付いてくるので、抱き上げたままなかなか話してもらえなかった。
そうしてアーディも交えて話をしている時のことだった。
ガチャと、ノックもなく扉が開いて、ぬっと誰かが入室してきた。
「アーディ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど、」
顔を見せたのはミスティだった。
「あ」
その場にいた皆が固まる。アーディがあちゃーと気まずげな顔をした。
ティアリィは目を見開いてミスティを見つめて。そして。
同じ顔で驚いているミスティが、何かを言おうと口を開いた途端。
コルティを抱えたまま転移していた。
「ティアリィ!」
ミスティの悲痛な声が聞こえたような気がした。
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