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3・偽りの学園生活
*3-15・羞恥と歓喜
しおりを挟む久しぶりに本来の姿で歩く王宮は何も変わってはおらず、時折すれ違う侍従や侍女、女官や官吏の態度ごと、おかしなものなど何もない。皆が皆、まるでティアリィの出国などなかったかのような顔で行き過ぎるばかり。
それもある意味では当然のことと言えた。
本当に大きな影響などなく、この一月ほどが過ぎていたのだから。あえておかしかったことと言えばミスティの奇行ぐらいだったが、そこまではティアリィは知らず、ティアリィはティアリィで自分のことだけで手一杯で。
複雑な気持ちで後に続くと、ミスティが向かったのは、ティアリィ自身の私室だった。
ティアリィはやはりと、心のどこかで納得する。
そんな気はしていたのだ。この後のミスティの行動にも予想がついている。
案の定、部屋に入るなり、振り返ったミスティががばとティアリィを抱きしめてきた。
「ティーアっ……!」
感極まったようにそのままくちづけを求められ、ティアリィは抵抗する隙も与えられず、ただ、重ねられた唇を受け入れざるを得なかった。
「んっ……! ふっ……ぁっ、」
強く口を塞がれたかと思うと、息継ぎのタイミングを見計らうようにすぐさま舌が指し入れられ、やや乱暴なまでの激しさで口内を貪られる。
息と唾液と共に魔力を流し込まれると、もはやティアリィに成す術などなかった。
「ぁっ、んんっ、はんっ……ぅんぅ……っ」
慣れた熱だった。
ここ一ヶ月ほどは触れ合っていなかった、でもそれ以前は過ぎるほど注がれ続けてきたティアリィの魔力。
6年前に自分の気持ちを自覚してから、どうしても体内に留めておけなくなった羞恥の証。
それを今、約一か月ぶりにこれでもかと注がれて。なのに。
足りないと思った。
もっと欲しいと、思ってしまった。
だが、そんな自分の浅ましさが、やはりティアリィには受け入れがたく、こうしてくちづけを交わしていても、苦さしか感じられない。
頭は惚けていくし、体は熱を持つ。感じているのは確かに快楽だ。それなのに。
「んっ、ん、やぁっ……ぁっ! ミーシュっ……!」
顔を逸らして必死に抗った。だがもちろん、ミスティに逃がす気などさらさらない。
まだ、昼にもなっていないような時間だ。
こんな時間に部屋にこもって何を。
否、部屋であるだけましなのだろうか。
そう言えばミスティは割と場所を選ばない所があるのだった。
ほとんど一月触れ合わずに来たせいか、ティアリィも大概鈍っていたらしい。
いくら明確に怒りをあらわにしたミスティに、後ろめたい気持ちがあったからと言って、おとなしく部屋にまでついてくるのではなかった。
一月前までならきっと、とりあえずは逃げていたのに。
とは言えその時でもほとんど毎回、結局は追いかけられて捕まっていたのだけれど。
「ティーア、ティーア、ティーアっ……」
ティアリィの名を何度も呼びながら、ミスティは獣のように、ティアリィの服を剥いでいく。
後退るティアリィの足はこつん、すぐに扉に当たって、それ以上は下がれなくなった。
追い詰められている。
どん、扉に当たった背はずりと下がり、くちづけで注がれた魔力に寄った体からは力が抜け、足は萎え、気付けばティアリィは座り込み、合わせるようにしゃがみこんだミスティに囲われるようにして覆い被さられていた。
「ティーア」
飢えた獣のような目がティアリィを見ている。
そこに宿る熱はどうしようもなくティアリィの羞恥を煽って。なのに。同時にそれを、心地よく感じているのも事実なのだった。
「ミーシュぅ……」
唇から零れ落ちた呼び名はどこか甘く、縋るよう。なんだかひどく情けなくて。
ぽろり。ティアリィの目尻からは一粒、涙が滑り落ちた。
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