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3・偽りの学園生活
3-21・傍観者たちの遊戯(アーディ視点)
しおりを挟む「父様のアレはどうにかならないのかな?」
夕食の後。帰ってきていたティアリィと情報交換や仕事の打ち合わせなどを済ませ、コルティを寝かしつけてくるという背中を見送った。
寝るにはまだ少し早かったので、アーディはグローディを誘い、ボードゲームに興じることにする。
テーブルを挟んで向かい合わせに座り、コマを進めながらポツリ、呟いたアーディを、グローディはちらと見て、すぐに盤上へ視線を戻しながらにべもなくすぱっと一言、言葉を返した。
「無理じゃない?」
どう考えても。
彼らの両親の機微は、子供たち全員が知る所である。
否、おそらく一番下のコルティだけはわかっていないが、コルティと二つしか違わないミーナも理解しているし、それよりも更に上であるアーディやグローディは言わずもがな。だからこそ今回のティアリィの出国にも協力していた。
何分、父親であるミスティの束縛がひどい。
否、あれは束縛というより執着、妄執だろうか。
何処までもティアリィしか見ておらず、逃げを打つティアリィを追いかけて、追い詰めて、そして。
何をしているのかさえ、おぼろげながらではあるが、アーディもグローディも理解していた。
両親のそう言った部分など想像したくもないが、ある程度の年になり、授業などで必要最低限の知識を得ると同時、わからざるを得なかったのだ。
「だよねぇ、やっぱ無理かぁ……」
両親の仲が悪いというわけではなかった。
ただ、実年齢よりも情緒という部分では年若かったらしい母が、自身の感情に振り回されて、父としばらく距離を置きたがっているというだけである。
それも別に分かれるだとかなんだとかそういうわけではなく、本人が言うように時間が欲しい、それだけなのだろう。
ただ父がそれを決して許さないというだけで。
逃げて、逃げて、逃げて、結局捕まった後の母は、正直な所、見ているだけで憐れだった。弱い人ではないことは知っているし、儚い見た目に反して、性質は苛烈で、あれでタフだ。そんな母が、萎れるほど父には弱い。本気で逃げたければ、何をしてでも逃げるだろう。それこそ、今回のように、母の本気には父は勝てない。そうしていない時点で、ある程度はあれで母も父のことは受け入れてはいるのだろうけど。
「一ヶ月じゃ、足りなかったみたいだよね」
今回、母が父から逃げていられた期間である。
それも、手紙などの策を弄して、アーディやグローディが手助けして初めて成り立った。
それ以上はどうにもならなかったとも言える。
アーディやグローディもピオラのことは心配していて、そう言ったこと諸々が組み合わさっての今回だったのだが。
おそらく今夜も、母は父に捕まっているのだろう。父の気配も、ひどく近くまで来ていたし、あの父が母を逃がすとは思えない。
「でも母様、もう少しあっちで学生続けるんでしょ? なら、まぁ、今までよりはちょっと距離はおけるんじゃない?」
物理的に昼間は慣れていられるというのは大きい。
父は割と時間など関係なく、母を追いかけていたからなおさらだ。
「そうだといいけど。足りないでしょ、どう考えても」
父と母と。どちらが悪いという話でもないのだけれど、アーディはどうしても母により同情的になってしまう。
「父様、よく我慢してると思うけどなぁ……」
グローディが呟きながら駒を動かした。
「ああ、グローディは頭の中、父様寄りだもんね。兄妹で一番父様に似てる」
「見た目はお前がそっくりだけどな」
「中身までは似てないでしょ」
「いやぁ、どうかなぁ……」
「少なくとも、グローディほどは似てないよ」
どちらがより、父親に似ているのかなどというのは、他愛もない応酬だ。
アーディとグローディは年が近いこともあり、姉弟の中で一番仲がいいので、こんなやり取りは日常なのだ。
と、言うか年齢差は実は皆2歳ずつで姉弟全員同じなのだが、グローディの上のピオラはおとなしすぎて姉過ぎて、アーディの下のミーナはそもそもほとんど王宮にいない。その更に下のコルティは幼すぎた。
必然的にアーディとグローディはいつも共にいることとなり、こうして今も時間を共有している。
「てゆーか、そもそもさ、父様あんなので、よくこの国、傾かないよね」
この大国の皇帝が、嫁の尻ばかり追いかけている。どう控えめに考えても情けなさすぎる現実だった。
アーディの言葉に、グローディは肩を竦める。
「何言ってるの? そもそもこの国、王様、要らないでしょ」
皇帝の権力は絶大なのだが、同時に、皇帝などおらずとも国は回るような仕組みにもなっていた。
守護結界に守られたこの国には、策略や謀略などほとんど存在せず、皆、勤勉で実直で、余程でなければ体制を崩せる状況に出来なかった。
皇帝がある程度なら愚鈍でも、何とかなるようになっている。
加えて、父はあれで仕事は出来るのだ。
「確かに」
いてもいなくてもいい皇帝など、やりがいも何もない。ついでに価値も。
だからアーディは頷いて、おそらく将来、そんな皇帝位に、自分が座ることになるだろう事実をほんの少しだけ心の中で嘆いたのだった。
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