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3・偽りの学園生活
3-22・伝わらない、伝えない
しおりを挟むこうして偽りとは言え、学園に通っている間の方が息が吐けるというのはなんだか空しい。
ティアリィのいるべき場所は、ここではないはずなのに。
リアラクタ嬢にハメられ、水浸しになった翌日も、ティアリィは変わらない様子で寮を出た。
学年の違うピオラやミデュイラ嬢、フォセシア嬢とは校舎までもが違うので、共に行けるのは校舎の前までだった。
途中、男子寮の近くでユーファ殿下とも合流する。
ユーファ殿下にも年を同じくする護衛や傍付きが数人おり、実はティアリィ、否、ティールはユーファ殿下と二人ではなく、彼らと固まって数人で行動を共にしていた。
ティールもここでの立場としては、国の賓客であると同時に、ユーファ殿下の護衛の一人のようなものなのだ。
他の護衛とティールとの違いは、他でもないユーファ殿下からの対応。
護衛や傍付きに対しては、ほとんどいない者として特に接触も図らないのに対し、ティールのことは何くれとなく世話を焼きたがった。
以前にも言った通り、荷物を持とうとしたり、エスコートしようとしたり。
友人、とするにも気を使い過ぎている。
これではまるで恋人と触れ合おうとする少年のよう。
勿論、ティールはそんな風には受け取らず、国賓ゆえに気遣っているのだろうと受け止めていた。
あるいはユーファ殿下が親切すぎるのだろうと、そう。
そんなユーファ殿下とティールの様子を見たリアラクタ嬢が誤解して、ティールを目の敵にするのも当然と言えば当然だったのだが、自覚しないティールにはリアラクタ嬢の行動は過剰にしか見えず、逆に何がそこまで彼女を追い詰めるのだろうかと、首を傾げる始末だった。
校舎前で別れて、教室までを並んで歩く道すがら、ユーファ殿下は何くれとなく、他愛無い話題ででも、ティールと触れ合おうといつも苦心している。
ティールには何も伝わっていないけれども。
そして注意深くティールを窺っていたユーファ殿下は当然のようにそれに気付いた。気付いた以上は話題に乗せる。
「ティール? どうかしたのかい? 元気がないようだけれど……まさか昨日、私がいない時に何かあった?」
前日。リアラクタ嬢にティールが呼び出されている間、ユーファ殿下とはほんの少しだけ別行動だった。
ユーファ殿下が何やら確認事項があるだとかで、一人だけ教師に呼ばれていたためだった。
だが、行ってみるとわざわざ呼び出すような用事などはなく、首を傾げて教室に戻ると、今度はティールが教室を出たという。しばらくして特に何かがあったようではない顔で戻ってきたので、ユーファ殿下もその時は気にしていなかったのだが、それぐらいしか心当たりがなく、ひとまずはと疑問を口に乗せた。
ティールは勿論、首を横に振る。
リアラクタ嬢からハメられたことは、ユーファ殿下に伝えるつもりがなかった。
その必要も感じられない。
それに、ティールの様子がもし、おかしいとして原因がリアラクタ嬢ではないことだけは確かで。
「いいえ、何も。昨日も、大したことはありませんでしたよ」
問題はないと告げるのだけど、当然ながら、ユーファ殿下の憂い顔は晴れない。
「そうかい? 何もなかったのなら、いいんだけど……何かあったら、すぐに私に言うんだよ?」
気づかわしげなユーファ殿下の様子に、あまり無下にし過ぎるのも悪いなとティールは控えめに頷いた。
「ありがとうございます、ユーファ殿下。何かありましたら相談させて頂きますので」
何もなければ何も伝えないけれど、とは心の中だけで続けて、ティールは小さく微笑んだ。
それに一瞬、ぽーっとユーファ殿下が見惚れてしまっていることには、やはり気付かないままで。ティールの心の大半はいまだ、遠く自国で今頃仕事をしているはずの自身の伴侶に捕らわれていた。
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