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3・偽りの学園生活
3-60・素晴らしい休日(ピオラ視点)
しおりを挟むユーファ殿下の好意は、誰が見てもあからさまだった。
ティールが気付いていないのが不思議でならないぐらいには。
だって、まだたった6歳の少女でさえ、少し接しただけで気付くぐらいなのだから。
「ねぇ、ピオラ姉様、あれ、宜しいの?」
くいと手を引かれて妹にそう訊ねられ、ピオラは思わず笑ってしまった。
「コルティも気付いたの?」
穏やかに訊ねると妹はこくり、素直に頷く。
「あんなの、気付かない方がおかしいわ」
「でも、母様は気付いておられないわよ?」
「母様はおかしいから仕方ないの」
明け透けで端的な評価は、しかしどう考えても間違えてはいなくて、ピオラはますます笑いを深くした。
いつまでも甘えたで、母親が大好きなコルティがそういうぐらいなのだから母の鈍さは筋金入りということだ。
そしてコルティにとって、母を大好きだと公言してはばからないことと、母をおかしいと評することは、何ら矛盾しないことなのだろう。
確かにおかしい、だなんてそんなもの、その相手への好悪には影響しないことなど容易にあり得た。とても単純な話なのだ。
「それより、問題はピオラ姉様でしょう? 婚約者候補とお聞きしていたと思ったのだけれど」
母のことよりも、とちらと上目遣いで見上げられる。
これは心配してくれているのだろう。察して、心があたたかくなる。
自分の周りは、自分を大切にしてくれる、あたたかい人ばかりだ。
両親はもとより、護衛や侍女、友人に弟妹、更にはいずれは親子になる予定の相手のご両親まで。
皆、ピオラを心配していたり、すまなさそうにしていたり。なんてありがたいことだろうか。
もっとも、そんな風に心配になるほどに、ユーファ殿下があからさま過ぎるのだけれども。
「いいのよ。お母様に好意を抱かれるだなんて、むしろお気の毒だと思うぐらいよ」
何故なら、ユーファ殿下の好意は絶対に届かない。母がそれに気付けたとしても、受け入れることがあり得ないこともまた、誰もがわかっていることなのだ。
父は絶対に母を逃がさないだろう。
今は少し仲がこじれているようだけれども、そんなことぐらいであの母が父から本当に離れてしまうとも思えない。
伊達に十年も連れ添ってきてなどいないのだから。
それら全てがわかっていてなお、コルティはピオラを心配してくれている。
コルティはピオラの返事を聞いて、これでもかと口をへの字に曲げた。
どうもピオラの言葉はお気に召さなかったらしい。子供らしい様子が微笑ましかった。
その上、それで出てきた言葉が、
「ピオラ姉様もおかしいのね」
これである。
ピオラは再び笑った。
自分の妹はなんて可愛らしいのか。
「そうよ? だってお母様の娘ですもの。きっと貴方もおかしいわね」
それは言い換えれば母に似ているということ。自分たちにとっては、何も恥ずべきことではない。
その証拠に、ピオラに笑いながらそう告げられたコルティは、何処か面映ゆそうにしていて。
「……母様に似ているのは嬉しいけれど、おかしいのは少し嬉しくないわ」
なんてぼそりと呟くのだ。
本当に全く! なんて素晴らしい休日だろうかとピオラはいつになく浮かれた気分で、
「それはそうとコルティ、何か見たいものがあったんじゃなくて?」
コルティの意識を、本来の目的へと誘導してあげることにした。
そうだった! と慌てて目当ての棚を目指し始めたコルティが、実は少しばかりユーファ殿下を試そうとしていたことにも気づいていたけれど。そんなことは、この楽しいお買い物には、まったく関係のないことなのだった。
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