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4・初めての国内視察
4-34・見つめ直すこと⑮
しおりを挟むこうしてアルフェスと向き合うのは、いったいつぶりだろうか。
そうも思った。
ティアリィはいつからか、否、アルフェスがあくまでも受け身の姿勢でいると知ってからずっとそれとなくアルフェスを避け続けてきた。
特に学生時代など、随分とそっけなく接した自覚もある。
アルフェスを真面目に向き合わなくなったのはそれよりも前からで、言ってしまえば子供の時から。
こうして真っ直ぐに視線を交わすことさえしなかった。
当たり前だがもうすっかり大人だ。
子供の頃の印象などまるでない。
『ティアリィ……』
頼りなく揺れた瞳。
体格や彼自身の持つ膂力等に反して、仕草や態度は、守らなければならない弟のようだった。
そして、それだけならまだしも、アルフェスがティアリィに求めたのは更に積極的なティアリィからの求愛で。
ティアリィには到底受け入れがたいことだった。だからこそ避けて、避けて。そして。
今のアルフェスに弱々しさなんてない。
彼もまた母になったからだろうか。
母ゆえの強さなのか。
揺らされることのない瞳が真っ直ぐにティアリィへと注がれていた。
そのまま、男らしい少し集めの唇がゆっくりと開いていく。
「貴方を恨んでいないと言ったら、嘘になります。いいえ、違いますね、以前に、貴方を恨んでいたことがあるんです。でも今はもう、そんな気持ちはありません」
それはアルフェスからティアリィに対する、11年ぶりの断罪だった。
勿論、アルフェスには今更ティアリィを責めようなどと言うつもりはないだろう。ただティアリィがそんな風に感じたというだけの話。
「僕は過去に貴方を恨んだことがあります。それは間違いがない。でも不思議ですね。気持ちは疾うに風化して、貴方とルーファなら、今は間違いなくルーファの方が大事だとそう言えるんです。かつて。貴方に恋をしていた気持ちは本当だった。ルーファにだって、そんな風、強い気持ちなんて抱いたことはない。そんな、僕にとって一生に一度の恋でした。きっとこれから先も、貴方以上に恋しいと思う人なんて現れないことでしょう。でもそれはもう過去の話だ」
そこでアルフェスはもう一度ティアリィから顔を逸らして入り江の方を見た。
視線の先にはルーファ。
今の彼の幸いがいる。
「ルーファは僕に寄り添ってくれました。貴方が好きなままの僕に、だけど彼女は根気強く手を差し伸べ続けてくれた。僕の気持ちを否定することなく、丸ごと全て受け止めて。彼女があんなにも広く、包み込むような性質を持っていただなんて、ほとんど一緒に育ったのに、僕はちっとも気付かなかった」
ティアリィも改めて入り江の方を見た。
ルーファ。
愛しい妹。かわいくてかわいくて随分と甘やかしてしまった。
だけど今では立派に、アルフェスと夫婦として寄り添っている。
「ルーファはおそらくいまだに恋を知りません。彼女なりの心で、すぐに好きだったわけでもない僕に決めてしまって。誠実な彼女はきっとこれから先も恋を知ることはないでしょう。でも、愛は知っている。僕を、子供たちを愛してくれている。僕も同じです」
そうしてまた、ティアリィへと向き直る。
ティアリィへと注がれるのは、何処までも真っ直ぐな視線だった。
ティアリィもまた、アルフェスへと向き直り、それをまっすぐに受け止めて。
そして。
「貴方はどうですか? 貴方と陛下の間に愛はありますか?」
その問いかけは、なんだかひどくティアリィの心を揺さぶって。ぽつん、波紋のように広がって、いつまでもティアリィの心を、動揺から放さないでいるかのようなのだった。
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