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32・道中④
しおりを挟む明らかにそわそわしてしまっていたのだろう、ラルが隣でくすりと笑う。
「何か、落ち着かないようですね。でもこういう場合、私達のような立場の者は、動かない方がいいんですよ」
むしろ本当なら、全ての準備が終わるまで、馬車の中で待っていてもいいぐらいだと、そう告げられる。
なるほど、そういうものなのかと俺は素直に頷いた。
なにせ、本当に馬車でのこんな長時間の移動など初めてなのだ。知っていることの方が少なかった。
ラルの言葉が聞こえていたのだろう、ラルの侍従もこちらへとにこと笑いながらこくんと頷いていたし、オーシュはやはり呆れたように肩を竦めて、ディーウィはにこと微笑むだけ。
否定したそうな顔の者が誰もいない以上、どうやらラルの言うとおりであるらしいと理解した。
とは言え、今更わざわざ馬車へと戻るのも抵抗があり、皆が忙しそうに動き回るのを、見つめるばかりとなってしまう。そうすると、やはりどうにも落ち着かない気分になった。
そもそも俺はラルのように、貴族としてふるまう、だとかいうことが得意ではないのである。
だから、ただ待つばかりだとかいうことに馴染めない。
こんな風に、ぼうっと立っているだけだなんて。
せめて何かと思って、周囲の気配を探ることにした。と、途端、思わず顔をしかめてしまう。
「オーシュ」
短く名前を呼ぶと、きょととこちらを振り返ったオーシュは、だけど、すぐに気付いて顔を引き締めた。
「おう」
俺の言いたいことを、言わずとも理解した様子のオーシュに、俺はひょいと肩を竦める。
「頼んだよ。生かして捕まえてきて」
僕からの指示に頷くや否や、次の瞬間にはオーシュの姿はそこになかった。
別に転移しただとかいうわけではない。ただ単純に、素早く動いて去っていっただけである。
オーシュもディーウィも、流石に転移魔法は使えないので。
だが、特にオーシュは非常に身軽で、こと戦闘となると動きが速すぎて、ともすれば瞬間移動でもしているように見えるほどだった。
ちなみにオーシュは魔法剣士である。剣だけではなく、魔法も得意で、むしろその二つを組み合わせ、戦闘に用いることを十八番としていた。
純粋に武力というなら、右に出る者が少ないぐらい。ただし、普段の言動や性格、乱暴すぎる態度により、評価を著しく下げている。もったいない話だった。
今の俺とオーシュのやり取りを身近で見て、ラルが驚いたような目でこちらを見ている。俺はひょいと肩を竦めた。
「追手か刺客か盗賊か。まだ距離はあるし、多分ちゃんとオーシュが捕まえてくると思う」
そんな俺からの返事は。どうしてか、更にラルを驚かせることになったようだった。
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