74 / 236
72・ラルの話⑧
しおりを挟む「僕だって、君に一度も会わないまま、そんな話を進めるのには少しばかり抵抗を感じた。でも、僕は君が好きで。君がたとえ実際にはどんな人物なのだとしても、君に惚れる自信しかなくて。チャンスだ、そうも思ったよ。コリデュアからの申し出を受けたら、僕は合法的に君を手に入れられる。なにせコリデュアからの申し入れだ。君の意思も、少しぐらいはそこに含まれていると僕は思っていた。会ったことはなかったけれど、僕は自分の立場を明らかにしてコリデュアに連絡していたからね。僕の絵姿や映像ぐらいなら入手できただろうと考えたし、立場なども踏まえて僕に興味を持ってもらえたのかな、って。その上で、君に何らかの思惑があっての婚姻だと思っていた。今考えると、何故そう考えられたのか不思議なんだけど、多分、君と結婚できるかも、って事実に舞い上がってしまっていたんだと思う。君も、もしかしたら僕の絵姿だとかに興味を持ってくれたんじゃないかって。そんなに都合のいいこと、あるはずもないんだけどね。だから了承して、君を迎えに行ったんだ」
そう語るラルは、少しだけ寂しそうだった。
その時のラルの予想が、全く的外れだったことを、今はもう知っているからなのだろう。否、多分コリデュアにいたのだから、あの国に行った時点で分かったはずだ。コリデュアでの、特に王妃の僕に対する扱いと嫌悪を。
「コリデュアに着くと、まず真っ先に婚姻の手続きを済ませることになった。君に会う前に、だ。当然、僕は戸惑ったけれど、僕も誰かと結婚する、それも相手は他国の王族、第一王子だなんて初めてのことで、そんなものなのかな、とも思って。不審には思ったけれど、僕自身、君と結婚できるって言うのは嬉しかったし、あちらに言われるがままに手続きを終了させた。それに対しての条件のようなものも、全てコリデュアが提示したとおりにと」
「条件?」
初めて聞く話だ。そんなものがあったのか。
首を傾げる俺に、ラルは苦笑する。
「大したことじゃないよ。コリデュア側は、君に対しての持参金などは一切出さない。君は身一つで僕の元へ来る。その代わり、僕にも何も求めない。金銭はもとより、縁続きとなる事実そのものも、必要とはしないと。君の父である国王は、君を大切にするのならばそれでいいと言った。僕は君の出自ゆえのことだと判断した。まさか本当に一切何の荷物もなく、身一つの君を連れてくることになるとは思ってもみなかったし、その時には王妃も同席していなかったしね」
厄介払い。話を聞いて、思ったのはそれだった。
応援ありがとうございます!
11
お気に入りに追加
1,764
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる