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76・ラルの話⑫
しおりを挟むラルが目を細めて俺を見る。うっとりと、恋焦がれるような眼差しで。
「実際に会った君は想像よりもずっと素敵だった。ひと目見て、また僕は恋に落ちたんだ。輝いて見えたよ。可愛くて、可憐で、キレイで。そして目の前で生きて動いて、話している。なんて素晴らしいんだろう。そんな君が、すでに僕の伴侶だったんだ。僕はおかしな顔をしないように気を付けるだけで精一杯で。なのに王妃はまた君にひどい態度を取って、腹が立ったよ。もっとも君は全く気にした様子を見せなかったね。そんな所にも僕は惚れ直した。なんて素晴らしい人なんだろうって」
熱烈である。頬が赤く染まっていくのを自覚した。
そもそも俺はこんな風に、まっすぐに好意を向けられることに慣れてなんていないのである。なにせ育った環境が環境だ。
ナウラティスに行ってからは、立場が変わったのと、好きに得られるようになった知識を吸収するのに夢中で、周囲の言葉をよく取りこぼすようになっていた。これに関してはオーシュにもディーウィにも伯父にも指摘されている。
『フィリス。君はもう少し、人の話をよく聞いて、相手からの気遣いや好意を、素直に受け入れられるようにならなければね』
なんて、そう、伯父に言われたのは一度や二度のことじゃない。
いまだに俺にはよくわからないのだけれど、一応これでも気を付けるようにはしている、はずだ。
そんな俺なので、こんなにも熱烈な好意を、全く受け止め慣れていないのだった。
「僕も反省してるんだよ。馬車の中でね。君が僕の伴侶なんだって思ったら嬉しくて。あんな場所でなんて、構いませんかって聞いたのも、浮かれてたからだ。我慢できなくて、君が欲しくて。でも実は断られるだろうなとも思っていた。何せあの時、僕達は初対面だった。いくら婚姻が成立しているからと言って、あんな場所であんな風に求めて、君が頷くとは思えない。それこそ、王妃の言うような身持ちの緩さとなってしまう。まさかそんなはずはないだろうし、断られたらちゃんと、我慢しなければ、とは思っていたんだよ? でも……」
ラルの話を聞きながら、俺は思い出していた。馬車の中での初夜。俺の初めてだ。初めて、ラルと体を交わした。今ではすでに日常になった行為。この腹の中には今、ラルの子供まで居る。
それら全ての始まりとも言えるあの日、その数時間前にあったばかりだった、自分の旦那だと紹介されたラルからの確認に、構わないと、頷いたのは間違いなく、俺だった。
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