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121・新たな火種②

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 俺は内心で頷く。
 なるほど、これが国王曰くの不要な無能。
 おそらく地位ばかりが高くて能力のあまりない者なのだろう。
 少なくとも、人を侮ることだけは上手そうだ。
 無能、違った、男がわざとらしく、たった今気付いたとでも言わんばかりに俺へと明確に視線を向けてくる。
 先程から舐めるようにこちらをうかがってきていたくせに、ここでそんな演技をする必要があったのだろうか。
 内心で首を傾げる俺を尻目に、男はあからさまに侮蔑に満ちた眼差しを俺にぶつけてきた。
 ある意味ではコリデュアでさんざん王妃に向けられていたそれに似ていて、だが、比べてしまうとあまりに毒が足りない。
 それはそのままきっとこの無能の、違う、男の矮小さの表れなのだろう。

「それで、こちらが噂の・・……」

 言葉も当然嘲笑に彩られていて、ラルの機嫌があからさまに下降していくのが手に取るように俺にはわかった。
 それでもラルはにこと笑みを浮かべて見せている。

「はは。いったいどのような噂・・・・・・をお聞きになっておられるのかはわかりかねますが、彼がこの度、私の伴侶となった最愛であることは間違いない事実ですね」

 ラルの言葉はつまり牽制に他ならなかった。
 そうしていながら、俺の名前さえ男に教える気はさらさらないらしい。
 それはおそらく俺に男を正しく紹介しないのと同じ理由なのだろう。
 要はこの男がラルにとっても俺にとっても、不要であることが間違いないからだ。
 ラルの怒気を感じ取る程度の敏さなどなさそうな男は、当たり前にそれには気づかず、しかし、牽制されたことにだけは理解したのだろう。少しばかり鼻白む様子を見せて、ピクリと片眉を歪めていた。
 そんな風にすぐに顔に出る辺り、この男は何処までも底が浅い。正しく無能なのだろう。
 俺はラルの隣にでただひたすら大人しくしておいた。目の前の男にはラルの言葉に合わせて小さく目礼だけを返して。
 無視をするわけではないが、挨拶もしない。
 何故ならラルに紹介を受けたわけではないからだ。
 それに男は気付いているのかいないのか。

「おや? 噂は確かではないと?」
「貴方ならすでにお分かりでは?」

 そんなはずはないと言わんばかりの男の言葉に、ラルははっきりした返答など何も返さず、やはり如才なく微笑むばかり。
 これはますますいよいよ本当に、この男は不要らしい。
 ラルからは何も確かな返事を得ていないにもかかわらず、男はそんなことには一切気付かず、自分の言葉は否定されていないとでも解釈したのだろう、上機嫌に頷いていて、ああ、本当に全く何も伝わっていないのだなということがよくわかった。
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