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126・初めての夜会④

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 そこから1ヶ月。否、俺がこのリヒディル公爵邸に着いてからずっと、むしろ出会ったその時から、ラルの俺に対する気遣いはくすぐったいほどだった。
 ラルが俺に無理を強いるのは行為の時ぐらいで、それが結構あれなのでそれですべて帳消しになっている気がしなくもないが、それ以外はなんと言えばいいのか。

「甘やかされている気がする……」

 ぽつり、呟いた俺に、ディーウィが呆れたような視線を向けてくる。
 相変わらず俺にはやることが何もなく暇を持て余していた。
 もうすぐ夜会なのだが、それに関連することとかそれ以外でも、本当に俺は何もしなくていいのだろうか。
 そう不安になってしまうほど俺は何もさせてもらえていないのだった。
 暇だと訴えたら何くれとなく暇つぶしのような気晴らしのようなものを進められたが、そんなものは長く暇をつぶせるようなものではなくて。結局はまたこうやって、ぼんやりと過ごすばかりとなっている。
 そうして改めていろいろと思い返しての先程の発言だったのだが、ディーウィには呆れられるようなものであったらしい。

「今更ですか。確かに、ラル様のフィリス様への対応は甘いと言わざるを得ないものであることは確かですね」

 ディーウィの言葉に、俺は口を尖らせた。

「誰もラルのことだって言ってないだろ……」
「それ以外の誰のことだって言うんです」

 一応と物申してみたけれど、もちろん、俺はラルのことを言っていたし、それをディーウィがわかっていないはずもなく、はっきりきっぱり言い返される。
 俺は今度こそ口を閉ざした。
 そうして改めて思い返す。これまでのラルとのやり取りを、だ。
 ラルは今のように、俺に何の仕事もやらせようとしない。
 何かさせて欲しいと訴えても、

『フィリスの今の仕事はゆっくりと体を休めることだよ』

 などと笑って取り合ってはくれず、それどころか、本当に俺には何もさせたくないのかの様子を見せる。
 かと言って、俺が何かしようとするのを妨げるわけではない。例えば庭を散策するだとか、リヒディル公爵邸の中を歩き回るだとか。
 この屋敷の中に、俺が行ってはいけない場所なんてどこもないらしい。料理の真似事のようなことも、洗濯の手伝いなどもさせてもらうことが出来たのだが、俺が中途半端に手伝うと担当の使用人が非常にやりづらそうにしていて、ディーウィにもオーシュにも溜め息を吐かれたので結局一度試しただけでやめてしまった。
 そうだろうと正直思う。いくら暇だからと言って使用人の手伝いなどしない方がいいのだろう。わかってはいたが暇だったのだ。
 ラルは俺を咎めなかった。
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