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171・開いた茶会にて⑮
しおりを挟む「そうですわ。いくらこのような席だからと言って、言っていいことと悪いことがございますわよ」
その上、更にここでアティクシーエ伯爵がまさかの侯爵夫人を擁護するようなことを俺に向かって告げてきて、俺はますます呆れるばかり。
この場の雰囲気を、あまりにも理解していなさ過ぎた。
さて、いったいどうしたものかと思案しながら、だけどおそらくはこれ以上話しても無駄なのだろうと俺は判断する。
俺はあくまでも笑みを浮かべ続けることを心掛けた。呆れを顔に出さないようにだけ苦心する。
「先程から、何か勘違いしていらっしゃるようですが、侮辱しておられるのはどちらの方でしょう。私は嘘偽りなど何も申しておりませんよ。そしてナウラティスは侮辱されてなお、全てを許容するほどには寛大ではございません」
それはいわば最後通牒のようなものだった。
敢えて国の名前を明確にして、自分たちが楯突いている存在がなんなのかの自覚を促す。これでわからないのならどうにもできない。否、はじめからわからないだろうと思っていて、この会を開いていて、だけどまさかここまではじめから会話にならないとは思ってみなかったのも本当だった。
もっとも、侯爵夫人の言葉を流さなかった俺も俺か。とは言え、そんなことをすればはじめからこの会を開いた意味がなくなるし。
でも、言葉が通じない者を相手に、いくら言葉で説いた所できっと意味などないのだろう。
「エドゥヌ侯爵領は確かコリデュアからもほど近い、川沿いにありましたね。山岳地帯を内包していながら、しかし魔の森からは遠かったと記憶しています」
「? え、ええ、そうよ」
頭の中に地図を描きながら、事前に調べた情報を告げていく。
突如変わったかにも思える話す内容の変化に、エドゥヌ侯爵夫人は面食らったかのように気概を削がれたらしく、ぎこちなく頷いた。
「主な産業は酪農で、乳牛を多く所持しておられるのだとか」
「ええ、そうですわね。間違いございませんわ。よくお調べになっていらっしゃること」
嫌味でもなく感心したような声音には、戸惑いが透けて見えるよう。
俺はそのまま言葉を続けた。
「販売ルートは主にフデュク商会を通しておられたはず。ですが今日のお茶会の話を聞いて、果たして彼の商会はこれまで通りの取引に応じて下さるのでしょうか?」
そこまでを口にして侯爵夫人が一気に気色ばむ。
「っ! まさかそれは脅していらっしゃるの? 残念でしたわね。そのようなお話に左右されるほど、うちと彼の商会の付き合いは、浅くも短くもはございませんことよ」
あくまでも脅しに屈しないという態度の侯爵夫人を眺めながら、俺はやはり笑顔のままだった。
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