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187・無能の行く末⑦
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「ちくしょうっ!」
案の定、言いながら握りしめた拳をこちらに向かって振りかぶってきた男は、それが俺へと届く前に、瞬く間に護衛に取り押さえられてしまう。
ずさっと、地面に押さえつけられ拘束された男は俺の方を睨み上げていて、結局本当に何をしにここへ来たのかと呆れかえるばかりだった。
「謝罪に来たのではなかったのですか? それが謝罪の態度?」
「お前の所為だっ! お前が私を陥れたんだろうっ!」
微笑んだままの表情を崩さず、首を傾げる俺に向かって、激昂しきった男が唾を飛ばして吠えてくる。
なるほど、どうやら男は真実、今の自分の現状を俺の所為だと思っていたらしい。だからこそ謝罪すればそれで済むと考えていたのか。
つまり本当に何一つ理解していないということだ。流石は無能。
「おかしなことを言いますね? 私は何もしていませんよ。そもそも、貴方を陥れて、私に何の得があるというのです」
「お、俺の発言に腹を立てたんだろっ! その腹いせにっ!」
男の発言に、なるほどと俺は一つ頷いた。
自分の状況がおかしくなって真っ先にそう思うということはつまり、この男は同じような理由でこれまできっと男自身がそのようなことを行ってきたのだろう。だからこそ俺も同じことをすると考えた。
一応お茶会で俺を侮辱した自覚はあったらしい。それだけでも評価するべきなのか。否、関係がないな。
そんな風に思考を巡らせながら、俺は変わらない表情で男を見下ろしている。
俺の表情があまりに変わらないままである所為か、男がどこか怯えているようなのか分かった。
いや、微笑みを崩さないだとか、そんなの貴族としては取り立てておかしくないことだと思うのだけれども。自分の認識を疑いそうになるけれども、相手はこの男。
すぐに気を取り直す。
「腹いせでそのようなことはしませんよ。貴方ではあるまいし。本当に僕は何もしていません。ただ、周囲にはあのお茶会での言動は正しく全て伝えましたけれども、それだけ」
「周囲、だとっ……?」
僕の言葉に男は怪訝な顔をした。
いったい何を怪訝に思うのか。本当に理解できないのだろうか。
「ええ、周囲です。僕の出自はご存じでしょう? ああ、もちろん、コリデュアではありませんよ? もう一つの方。つまりナウラティスの伯父と伴侶であるラルに」
「お前っ……! 卑怯だぞっ!」
「なぜ?」
俺は本当に周囲に伝えただけだ。それを何故、卑怯だと言われなければならないのか。相変わらずわけがわからないばかりだった。
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